建設業界の全レイヤーを経験するためキャリア変遷ーご自身の現在のキャリアについて教えてください現在の主な専門領域は、土木建築の建設プロジェクトマネジメントになります。もともと学生時代は土木工学を専攻しており、当時は本四架橋に代表される、長大橋梁の建設が盛んだった時期でもあり、私自身、設計者になることを志していました。そのため、新卒で入社したインフラ関連の事業会社で約20年間ほど、長大橋梁や港湾・空港・プラント施設等の設計・建設、事業開発に携わってきました。3度の転職を経て4社目の現在は、米国に本社を置くデータセンターを開発・運営する会社に勤めており、不動産アセットの開発におけるプロジェクトマネージャーを務めています。ー設計からプロジェクトマネジメントに移られたキャリアの変遷について、もう少し詳細を伺えますか?通常、建設業界は大きく分けて3つのレイヤーが存在します。依頼元となる「オーナー(事業会社)」。次に、実際に建設の工事を請け負う「コントラクター(建設会社)」があり、その両者の間には「建設コンサルタント」が入ることが一般的です。その上で、“欲が出てきた”とでも言うのでしょうか。実際にキャリアを積むにつれ、個別の構造物の設計や建設だけでなく、都市開発や地域開発等の大規模なプロジェクトに関わりたいと思うようになりました。 1社目は、まさに工事を請け負う側の立場でしたが、次のインフラ関連のコンサルティング会社で3年間ほど、新興国をメインとした海外向け港湾建設のコンサルタントとして経験を積み、3社目の医療機器メーカーでは、オーナーサイドとして医療施設の建設プロジェクト等のPFI事業(※)に従事しました。※PFIとは、Private Finance Initiativeの略で、公共施設等の建設・維持管理・運営等を民間の資金や経営能力及び、技術的能力を活用して行う手法のことーご経歴を拝見した際、職種や業界の変化もあり大きなキャリアチェンジをされたことを想像していましたが、そこには一本の軸がしっかり通っているのですね。一見すると、コンサルティング会社や医療機器メーカーに転職をしているためにそういった印象を持たれることもあるのですが、根底には「インフラ建設」という軸が変わらずあります。立場を変えて、コントラクター→コンサルタント→オーナーサイドという流れで、全てのレイヤーを経験しました。冒頭にお伝えしたように、もともとは土木工学を専攻していたので、建築分野は専門ではありませんでした。しかし、インフラ領域全てをカバーできる専門性を高めていくため、自分なりにキャリアをデザインすることを心掛けてきました。人脈作り・顧客開拓に奔走するアメリカ駐在時代ー1社目在籍中に、アメリカ駐在もご経験されていますよね?はい。もうすぐで40歳を迎えるタイミングでした。それまでの十数年間は技術者としてかなり経験を積むことができたので、次のキャリアの展開を考えていた頃です。また、日本国内ではインフラ建設の需要も飽和状態になりつつあり、「これからは海外でも仕事を作っていかないとキャリアの伸び代がない」という思いがあり、引き寄せられたように感じました。これまでの技術者としてのキャリアを一旦ストップしてしまうことにもなるので、リスクや不安も当然ありましたが、あえて挑戦する道を選びました。ーアメリカでの仕事や生活はいかがでしたか?それまでの技術の仕事とは大きく異なり、主に営業や事業開発に従事しましたが、とにかく無我夢中で突っ走った5年間でした。駐在する以前は一度もアメリカに行ったことはなかったですし、TOEICの試験も要領良くスコアは取れていたものの、実践で英語を使う経験は皆無でした。当然ながら仕事のノルマもあります。しかし、そのための英語力も人脈も何もないところからのスタートだったので、かなり苦労しました。ーそんな状況をどのように打開していったのですか?当時、バイオエタノール精製プロセスを売り込むミッションを与えられ、新規顧客を任されていました。調べてみると、バイオエタノールプラントは当時、アメリカ全土で2,000箇所ほどあったのですが、とりあえず片っ端から全部の会社に電話をかけまくりました。1日50〜100件ほど架電する日々が、約半年くらいは続きましたね。 何も聞いてもらえず電話を切られることは当たり前ですし、聞いてもらえたとしても「5分でプレゼンしろ」みたいに言われ、説明し終えたら「だめだ!」と言って切られるみたいな。とある大手の穀物メジャー(※)には10回以上も電話をかけては毎回秘書に断られていたのですが、ある時、その会社の代表がもうすぐ開催予定のカンファレンスへ登壇されるという情報を与えてくれ、当日会場に突撃して強引にアポを取り付けたこともありました。そういった泥臭い行動を2年間くらい続けていたら、「悪い奴ではないな」ということが徐々に理解いただけ、だんだん人脈が形成されていき、徐々に引き合いが取れるようになりました。※穀物メジャーとは、大豆やトウモロコシ、小麦をはじめとする穀物の国際的な流通に大きな影響を持つ商社群1日2時間睡眠。休日返上でMBAを取得ーその粘り強さ、素晴らしいですね。その後の仕事は順調でしたか?人脈ができてきたといっても、また別の苦労がありました。顧客は何百億円もの大きな買い物をするため、当然経営者目線での判断をされます。「資金調達はどうするのか?」「自社のバランスシートにどういう影響があるのか?」そういった小難しいことを聞かれ、一つひとつ説明しなければ納得してもらえません。かなり高度なビジネスの知識が求められます。そこで、働きながらコロンビア大学のビジネススクールに通うことを決め、ファイナンスやマーケティングの勉強を始めました。ー仕事が大変な上、同時にMBAも取られたんですね。休む暇はなかったんじゃないですか?学校に通い出してからは1日2時間ほどの睡眠で、休みなんてものは全くなかったです。それに、他の同級生はすでにヘッジファンド、投資銀行、IT企業、経営コンサルファーム等の幹部として活躍している、いわゆるエリートアメリカ人ばかり。授業内容は高度ですし、加えて私の英語はなんちゃって英語。同級生は私より10歳くらい若くて体力もあります。今考えたら、「ようやってたな」と思います(笑)平日は仕事で全米を駆け巡り、夜は学校の課題。週末はビジネススクールに通う。そんなアメリカ生活の後半でした。ービジネススクールを通じて得られたことは何ですか?そこで出会えた仲間達です。あらゆる分野でわからないことがあれば、彼らに相談できる環境がありました。そして、学校を通じて学んだことをリアルタイムで仕事にも反映させることで、経営者やCFOの方に刺さるようなプレゼンができるようになってきました。現在でも、彼らから電話がかかってきたり、アジア領域の仕事の相談をもらったりすることがありますし、反対にアメリカのことについては私から相談させてもらうこともあります。何人かの同級生は、米国政府中枢の幹部としても活躍しています。彼らとの出会いは、まさに一生モノの財産です。ゼネラルマネージャーとして「ユニークネス」を大切にしたいーご自身が思い描かれる未来に対して、チャレンジングな環境を機会と捉え、突き進んでこられたと感じます。これまでのキャリアをどのように振り返りますか?最近はジョブ型という考え方が一般的になっていると思いますが、私的には“ユニークネス”を大切にしたいと思っています。都市開発・地域開発に従事するゼネラルマネージャーの明確なキャリアパスはなく、非常に広い守備範囲が求められます。土木・建築の理解は当然ながら、経済・財務面等、要するに事業開発や事業計画の視点も必要です。だからこそ、自分なりにその時々でチャンスを捕まえ、自律的にキャリアを形成していくことが求められると思っています。そのためには、多少のリスクがあっても冒険だと思って挑戦してきたつもりです。ー反対に、後悔されていることや心残りなことはありますか?色んな紆余曲折はもちろんありましたが、不思議と後悔は全くないです。理由としては、新卒で十数年間積み上げた経験が、次の会社で有効活用できたこと。そして、そこでの経験がまた次の会社の仕事に繋がっていき、今にまで続いてきていることを実感しているからです。過去に経験したことが全く無駄になっていないと感じます。強いて言うならば、「あと10年早く海外に出ていたら違ったかもしれない」と思うこともあります。しかし、20〜30代のうちに国内で地道にやってきた経験があったからこそアメリカでもやり切れたと思っており、若いうちに海外に出てたとしてもあまり身になってなかったかなとも思ったりします。視野が広がり、本業に活かされるエキスパート体験ーNewsPicks Expertで活動を始められたきっかけを教えてください。もともと、LinkedIn経由で案件のご依頼があったことがきっかけだったと記憶しています。正直どういうサービスかあまりよくわかっていなかったのですが、難しく考えず受けてみることにしました。御社以外にも同じようにご依頼をいただく会社があり、今では十数社ほどメジャーなサービスには登録していると思います。ー満遍なく複数のサービスを活用されているのですね。実際にエキスパート活動をやっている中でメリットは何だと感じますか?実務に役立つ形で新しい視点を獲得し、視野が広がることだと思います。そこが一番大きいですね。実際にインタビューを受けると、クライアントの担当者が色んな角度で質問されます。これまで考えたことのない視点も多く、それに応えることでフィードバックが得られ、さらに対話の中で知見が深まっていきます。例えば、「投資家はCO2削減に注目しているのではないか」という自分なりの気付きが得られると、既存事業の方向転換に関するアイデアが沸き、「次にデータセンターの建設を計画する時には、建設費が多少高くなったとしても再生可能エネルギーでつくられた電力を調達すべきではないか」と本社に提言できたりします。ー案件ごとに手応えは違いますか?色んなクライアント様との案件を行ってきましたが、結局どんな案件でも手応えはあります。特にコンサルティングファームのクライアント様は、言葉の細部やロジックにこだわられているので、とことん掘り下げて質問されます。納得するまで聞いてこられるので、こちらもとことん腹落ちするまで回答します。なので、インタビュー中はびっしょり汗をかくこともよくありますよ(笑)。ー実際にエキスパート活動を通じて得られるスキルはありますか?申し上げた通り、コンサルティングファームのクライアント様はロジックや事実関係に厳しいです。また事業会社のクライアント様も含め、その分野の専門ではない方々になるので、わかりやすく噛み砕きながらも、論理的に破綻することのないコミュニケーションをするスキルが鍛えられると思います。時には右脳を使って感覚的・直感的に理解してもらいやすいよう比喩表現を取り入れる等、工夫しています。ー本業と副業の活動は、どのようなバランスで取り組まれていますか?基本的に平日日中は本業で忙しいので、朝の早い時間にテキスト案件の回答を考えたり、終業後の夜にインタビューを調整したりして、すきま時間をうまく活用しています。自分の知見や経験は大したことないという「先入観」は捨てるべきー「自分自身がエキスパートとして価値提供できるのかイメージできない」といった方も多いのですが、そういった方々へのアドバイスはありますか?自分では自分のやってきたことがどれくらい役に立つかはわからないものですけど、聞いてるクライアント側にしたら興味深い知見だということがあり得るわけです。パッと伝えたことでも、「そこまでなんで感心してくれるんだろう?」と思うこともありますよ。なので、自分の知見や経験が大したことないというような先入観は一度捨てて、「立場が変われば価値ある情報に捉えられる」ということを意識してみたら良いと思います。ある意味、恥を捨てて「私はこう考えています」ということを伝えることが大事で、それで実際に役に立つ経験を得られれば、さらにそれを発信していけると良いのではないでしょうか。ー何ごとにおいても思い込みによって行動を躊躇し、機会を逃してしまうことはあるので、まずは先入観を捨てることは大切ですね。海外のプレイヤー含め、御社のようなサービスはまさに成長分野だと思いますので、ぜひこの業界の覇者になっていただきたいと思います。応援しています。ーエールをいただき、感謝いたします。本日は貴重なお話を頂戴し、改めてありがとうございました。