介護支援は感情労働。人間関係の良し悪しが働きがいに直結ーこれまでのキャリアについて、簡単に教えてください約20年ほど、介護業界でお仕事をさせていただいております。1社目では、介護施設現場での介護業務も経験しました。のちに複数の施設で施設長を担い、最終的には約40もの事業所の運営管理責任者として働いておりました。ちょうど「より経営に近い立場で仕事をしていきたい」と考えていた頃にお声がかかり転職。現在は20事業所の有料老人ホームを統括する立場として、主に事業所のマネジメントに携わりながら、人材採用計画を立てたり、入居促進の営業活動も行ったりしています。ー介護施設の現場において、大変なことはなんですか?介護施設の仕事は、まさに「感情労働(※)」です。そのため、スタッフと入居者・スタッフ同士の人間関係がいかに良い状態であるかが問われます。しかし、うまくいくことばかりではなく、そこが大変だと感じる点です。お互いの関係性が良ければ楽しく仕事ができますし、そうでなければ離職に繋がったりします。実際に現場にいた時も、人間関係を理由に離職していった仲間がいました。また、老人ホームに入居されるのは、およそ7割が認知症の方々です。怒りっぽくなってしまう「易怒性」を持つ方や、つばを吐いてしまったり相手に噛みついてしまったりする方がおられたりします。病気がそうさせてしまっていたり精神的な部分が影響していたりと、どちらのケースもあり得るのですが、そういったことで心を痛めてしまうスタッフも多くいました。「もう少しフォローしてあげられたかな」とか「認知症や精神疾患に関して学ぶ機会をつくっておけばよかったな」など、後になって思うことがありました。※感情労働:接客業の研究を行った米国社会学者A・R・ホックシールド教授が提唱。「職務として、表情や声や態度で適正な感情を演出することを求められる仕事」とも定義される食事・睡眠・運動。生活習慣の自立支援で認知症症状を軽減ー運営施設において、大切にされている取り組みはありますか?認知症の周辺症状を緩和するための「自立支援ケア」です。自立支援ケアとは、基本的な生活習慣を一定以上の水準に上げていくことを目的としています。例えば、適切な栄養素が取れる食事をお出しし、水分も一定以上摂取していただくようにします。加えて、きちんとトイレに座って排泄いただくようにサポートすることで、おむつを使わず、適切に排泄を行っていただけるように促しています。そうすると、徐々に運動やリハビリもできるようになり、それによって夜間も寝られるようになってきますし、睡眠薬や下剤などの薬の摂取を減らすことに繋がります。太陽を浴びたり活動する時間が増えれば、また食事が食べられるようになり、良いサイクルが生まれていきます。記憶が無くなっていくような認知症の中核症状自体を治すことは、残念ながらできません。しかし、体の状態がだんだんと良くなっていくことで、認知症の周辺症状を軽減することができるということがわかっています。ですので、私たちはこの自立支援ケアをとても大事にしており、そのためには、入居者様お一人おひとりのお身体の状況やその他様々な要素を踏まえ、「介護の質を高めていく」ことが欠かせないと考えています。ー介護施設全体において、自立支援ケアは注力されているのでしょうか?注力されていたとしても、実際にできているところは限られていると思います。重要性を認識していたとしても、できるようになるのはなかなか難しいです。本来的には、各入居者様にあった形で介入方法を検討すべきですが、そのために話し合う時間を持つことも容易ではないでしょう。また、そういった支援の在り方に全ての職員が情熱や知識を持っているとは限りません。言い方は悪いかもしれませんが、「生かしているだけ」の状態になってしまっているところもあるのが現状ではないでしょうか。しかし、その状態が続くと、入居者様お一人おひとりのために向き合った取り組みが一歩前に進んでいかないので、そこは業界の課題でもありますね。夢のためにリハビリを頑張りたい。動機付けのために欠かせない、入居者との対話ー各入居者様に合った介護支援の内容は、一体どのようにして考えられるのですか?もう一つ大切にしていて重要なこと、それが「アセスメントの実施」です。新しい方が入居されるタイミングで、長期と短期の目標を最初に決めるというプロセスを踏みます。長期目標は、いわばその方の夢みたいなものです。例えば「お孫さんと一緒に歌舞伎を観にいきたい」という夢があれば、それを叶えるための自立支援ケアのプランを作成し、そのサイクルを回していきます。長期目標は、入居者様ご自身にとってリハビリの動機付けになりますし、現場のスタッフにとっても然りです。目標に向かって一歩一歩進んでいくことで、結果として適切な食事の摂取や排泄など、自立的な生活を送っていくことができるようになっていきます。ー長期目標を聞き出せないケースではどうするのですか?そこも介護職員の腕の見せ所です。その場合は、入居者様のご家族や関係者に聞き取りを行い、生活歴をヒアリングします。生活歴から昔の仕事や趣味などを把握し、「この方はこういうことを望んでおられるだろう」と関係者で合意を得た上で、長期目標を設定していくことになります。お話しすることができない方は、合意を得るということ自体が難しい場合もあり、そんな時は「想像する力」が重要になりますね。また、入居者ご本人も気付いていないような長期目標を提案した際には「私ってそんなことしたかったんだ!」というような反応があったり、実際に「あなたの言う通りにリハビリして歌舞伎を観に行ったらすごく楽しかった」と喜びの声をいただいたりもしました。そのように、相手を想像する力や、潜在ニーズを掘り起こす力が必要であり、また弊社のスタッフはそこに長けているメンバーが多いと感じています。本業のアイデアに繋がる、NewsPicks Expertでのアウトプットーでは、今後のキャリアについてはどのように考えておられますか?キャリアアップはしていきたいと思っています。自分のこれまでの考え方や知見では届かない領域に対して、「見てみたい」という単純な好奇心があります。介護業界にこだわっているわけでもなく、「軸ずらし転職」と言われるような形でピボットしていくのが良いと考えています。直近でも、優良な求人案件があれば、自分自身の市場価値を知るためにも、エージェントと話をする機会を設けています。ーそんな中で、NewsPicks Expertをご活用いただいている理由はなんですか?自分の知識や経験をアウトプットすることによって、ちょっとしたお小遣い稼ぎができる点と、自分の考え自体が整理されるといった、大きく2つの理由です。今もこうして話しながら、「私ってこういう考えなんだな」と整理されているのですが、まさにそういう感じです。ー本業に還元できていることはありますか?ありますね。インタビューの依頼であれば、介護機器をはじめとしたメーカーがクライアントとしては多いのですが、先方の考える課題や悩みに対して適切に意見を示すため、事前に考えを整理することがあります。そうすると、例えば「時間がなくて職員が介護記録を作れないケースではこういうシステムがあったら良いな」とか、「動画の機能が組み込まれれば良さそうだな」など、具体的なアイデアの発想に繋がることがあるのです。それを実際に本業で取りまとめていくことで、本質的な課題にアプローチしていくことができます。また、別のメリットとして、 広い視点で会話ができて学びになる点も挙げられますね。クライアントが介護機器を開発する背景にある思いや、得意とされている分野、社内稟議をどんなふうに通しているのかなど、あらゆる視点でメーカーのことについて知ることができます。ーFLASH Opinion(コメント案件)の回答で、工夫されているポイントはありますか?なるべくクライアントが「こういう視点を得られてよかった」と思えること、そして現場目線でコメントすることを心掛けています。ー最後に、NewsPicks Expertの登録を検討されている方に、アドバイスをお願いします。色んな理由があって登録を迷っておられる方も多いと思いますが、仮にそれが自分の気持ちの問題なのであれば、「とりあえず、考えすぎずにやってみたらどうか」ということに尽きますね。実際に、自分の知見や経験が必要とされるかされないかは、やってみないとわかりません。それに、その判断はクライアントに委ねることだとも思うので、やれる範囲のことを一生懸命やるということで、気楽に取り組めば良いのではないかと思います。ーとりあえずやってみて、動きながら考える。そういうスタンスでも良いのかも知れないですね。本日はありがとうございました。