構造のない問題はない。経営OS設計者の情報整理のコツ / #インプットの流儀

公開日: 2026-06-29

「#インプットの流儀」とは、各業界の第一線で活躍するNewsPicks Expertのエキスパートが、専門領域の情報をどう選び、取り込み、アウトプットできる状態にしているかを語る寄稿企画です。

情報が溢れ、AIが瞬時に答えを返す時代に、「何を読むか」だけでなく「どう読み、どう消化し、どう自分の思考につなげるか」というプロセスにこそ、専門家それぞれの個性と知的な流儀があります。

本記事では、情報源の選び方から、取り込む習慣、整理・消化の方法、そして専門外から得ているインプットまで、大同火災海上保険株式会社 執行役員の粟国隆氏の情報処理の全体像を描きます。

「優秀な人はどんなふうに情報と向き合っているのか」——その問いへの一つの答えが、ここにあります。

EXPERT

専門領域の情報収集において、特に大事にしている情報源 

私は、情報源を「一次情報・解説・壁打ち」の3層で組み立てています。

最も比重を置くのは一つ目の一次情報です。元の数字、元の文書、元の発言に、できるだけ直接当たるようにしています。たとえば、要約を読んで分かった気になっていた話でも、元の資料に当たり直すと、要約では落とされていた前提に気づくことがあります。その一行が、結論をまるごと変えることもあります。要約やまとめは便利ですが、誰かの解釈を一度通った情報です。 仕組みを正しく知りたければ、一次情報に戻るしかありません。

二つ目の層は、書籍や論文といった「他の人がどう整理したか」が分かる情報です。ここでは事実そのものより、整理の仕方を学びます。一次情報の事実と、二次情報の解釈は、必ず切り分けて扱います。

三つ目は、AIを使った壁打ちです。私はAIを「答えを聞く相手」ではなく、「自分の考えを整理する相手」として使っています。情報が足りない時代ではなく、情報を整理しきれない時代だからです。

専門領域の情報を自分の中に取り込み、使える状態にするために工夫していること

私は、情報を「問い→整理→因果→示唆」という四つの段階で処理します。

第一に、読む前に問いを立てます。「ここから何を持ち帰りたいか」を決めないと、読書は流し読みに終わります。

第二に、論点を分解し、見える形に整理します。頭の中だけで考えていると、整理した気になるだけだからです。

第三に、「なぜそれが起きたのか」を一段深掘りします。理由まで降りない情報は、知識として残りません。

第四に、自分の仕事にどう効くかを書き出します。

そして、取り込んだ情報は、最後に必ず自分の言葉で書き出すようにしています。たとえば、ある内容を人に説明しようとして、途中で詰まることがあります。それは、自分がまだ理解できていないという合図です。書けないということは、分かっていないということです。

情報発信のツールとして、SNSを活用していますが、最近は特にnoteに記事として書くことを意識しています。これまでに170本以上書いてきました。私にとってnoteは、発信媒体である以前に、思考を消化する装置です。現在は、その中から約30本を選び、書籍化を進めています。書籍化は、四つの段階の最終工程に位置づけています。

専門外の分野で、自分の仕事や思考に意外な形で効いている情報源や習慣

専門の外で役立っているのは、技術の変化、社会の変化、歴史、そして音楽です。

自分の専門だけを見ていると、考え方は固定化します。だから、あえて違う分野に触れるようにしています。一見、仕事と関係なさそうな分野ほど、後から効いてくることが多いからです。
理由は、分野が違っても、人や組織が動く仕組みには共通点があるからだと考えています。専門の外で得た知識を一つ重ねるだけで、それまで別々に見えていた問題が、同じ根を持っていると分かる瞬間があります。専門領域の情報だけを見ていたら、その見立てには至りません。

意外性が強いのは音楽です。メロディやアレンジ、歌詞には、その時代の人が言葉にできなかった不安や違和感が、結晶のように残っていることがあります。組織の問題も、突き詰めれば「人が何を不安に感じ、何を求めているか」という話です。数字に表れない部分を、音楽が教えてくれることがあります。

専門の中は「何が起きているか」を見せてくれますが、専門の外は「なぜそれが普遍的に起きるのか」を見せてくれます。

私の「インプットの流儀」を言葉にすると

私のインプットの流儀を一言で言えば、「構造のない問題はない」です。

世の中で起きていることは、必ず何らかの仕組みの上で動いています。たとえば、複雑に見えていた問題も、一度その仕組みを描き出すと、論点が二つか三つに収まることがあります。だからインプットは、情報量を増やす行為ではなく、自分の中の地図を更新していく行為だと捉えています。新しい情報を浴びることよりも、「なぜ自分はそう考えていたのか」を疑うことの方が、はるかに難しく、価値があります。

AIで情報が誰でも手に入る時代になり、情報量による差別化はもはや不可能です。差がつくのは、問いの立て方と、構造の見立てだと考えています。AIに答えを求めるのではなく、AIに自分の整理をぶつけて構造を検証する。これが人間側に残された仕事です。

インプットとは、世界を理解する作業であると同時に、自分の思考の癖を解体し続ける作業でもある。私はそう捉えています。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「専門領域の情報をどう選び、取り込み、仕事に活かしているか」を言語化する寄稿企画「#インプットの流儀」の一編です。

情報源の選び方、取り込む習慣、整理・消化の方法、専門外からのインプットといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。

https://newspicks.expert/media/category/input-style

「インプットしているのに、うまく仕事につながらない」——そんな感覚は、多くのビジネスパーソンに共通するものです。本記事で描かれた情報の選び方・取り込み方・活かし方が、ご自身の型を見直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなることを願っています。

一人のエキスパートが培ってきた情報との向き合い方は、言語化され共有されることで、業界や職種を越えて応用できる知見になります。こうした知見がどのような現場で生まれているのか、続けてお届けしていきます。

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