専門領域の情報収集において、特に大事にしている情報源 私の情報収集は、大きく「メディア」と「人」の二つの軸で成り立っています。日々のルーティンとして欠かせないのはNewsPicksとLinkedInです。NewsPicksでは国内外のニュースや専門家の見解から市場全体の動向を把握し、LinkedInでは海外ベンダーや業界関係者の発信を通じて、日本市場に入ってくる前のトレンドを追っています。また、当社で開発したニュース収集Botも活用しています。AIによる要約から興味のあるテーマを選び、元記事や海外メディア、SNSなどの一次情報へ遡れるため、効率的に情報収集を行えます。ただし、私が最も価値を感じている情報源は「人との対話」です。顧客との会話からは、現場が直面している課題やその優先順位、実際に取られている対応策を知ることができます。経営者との対話では、かつてセキュリティを“保険”として捉えていた考え方が、AI時代を迎え“事業成長への投資”へと変化していることを肌で感じています。また、採用面談では年間200名を超える候補者と話した経験から、人材流動や業界全体の潮流を読み取ることができました。さらに業界コミュニティでの同業者との会話は、自分の認識とのギャップを確認し、新たな視点を得る貴重な機会になっています。情報の信頼性については、AIによる要約やメディア報道を鵜呑みにせず、必ず一次情報にあたり、複数のソースを比較し、顧客の実態と照合することを心がけています。大手メディアの記事であっても、情報源が明示されていない場合は慎重に扱います。情報が溢れる時代だからこそ、「誰が言ったか」ではなく、「何を根拠に言っているか」を重視しています。専門領域の情報を自分の中に取り込み、使える状態にするために工夫していること私の場合、情報収集の目的は「知ること」ではなく、「使える状態にすること」です。そのため、情報の重要度によって扱い方を変えています。一読して終わるニュースもありますが、「これは今後の市場や顧客に影響しそうだ」と感じたものはブックマークし、改めて時間を取って深掘りします。一次情報や関連する海外事例まで遡って確認し、自分なりの解釈を加えるようにしています。また、インプットした情報はできるだけ外に出します。業務上有益だと感じたものは社内のSlackチャネルで共有し、業界のトレンドの起点になりそうなものや市場の潮目が変わると感じたテーマについては、NewsPicks認定エキスパートとして自ら発信しています。人に説明することで、自分自身の理解も深まります。さらに、私は情報を事業や提案に結び付けることを意識しています。提案資料の根拠として活用することはもちろん、新しい法制度やガイドラインへの対応ニーズが見えた場合には、サービス化できないかを検討します。その過程ではAIとの壁打ちも活用しながら論点を整理し、場合によっては新規事業企画として経営会議に提案することもあります。顧客との対話も重要な検証プロセスです。顧客がまだ知らないテーマであれば価値ある情報提供になりますし、既に認識しているテーマであれば、論点や優先順位を擦り合わせる機会になります。私にとってインプットとは、情報を蓄積することではなく、実際の対話や事業活動の中で磨き上げていくプロセスなのです。私は「情報を覚えること」と「情報を活用すること」を別のものだとは考えていません。むしろ、情報はつなげて活用して初めて価値を持つものであり、それは長年の仕事の中で当たり前の習慣になっています。例えば、AIとセキュリティは別々のテーマではありません。AIの進化は新たなリスクを生み出す一方で、新しい防御手法やビジネス機会も生み出しています。また、法規制やガイドラインの動向は、単なるコンプライアンス対応ではなく、GRC支援やアセスメントサービスの需要につながります。採用市場も重要な情報源です。セキュリティ業界では事業再編やM&Aが起きると優秀な人材が市場に流入します。私は長年採用にも関わってきたため、人材市場の変化を事業戦略や組織づくりの観点から見ています。さらに興味深いのは、海外トレンドと日本市場の関係です。これまで外資系ベンダーに長く在籍した経験から、海外で起きたことが一定の時間差を経て日本市場に到来するという感覚を持っていました。しかし近年のAIセキュリティ領域では、その時差そのものが急速に縮まっています。かつては海外動向を数年単位で見ていれば十分だったものが、今では数か月、場合によっては同時進行で捉える必要があります。私は今まさに、その変化の節目に立ち会っていると感じています。情報を個別に集めるのではなく、異なる領域同士を結び付け、その先にある事業機会やリスクを考えること。それが私の情報整理の基本姿勢です。専門外の分野で、自分の仕事や思考に意外な形で効いている情報源や習慣私自身は、「越境しよう」と意識して情報収集をしているわけではありません。むしろ、少しでも興味を持ったことには一度触れてみるという姿勢を大切にしています。それはスポーツかもしれませんし、アートかもしれません。車やファッション、グルメといった個人の嗜好が色濃く出る分野もありますし、経営や投資のようなビジネス色の強いテーマもあります。専門性を深めるというより、「まずはかじってみる」「コミュニティに顔を出してみる」という感覚です。不思議なことに、そうした一見本業とは関係のない知識や経験が、後になって思わぬ形で役に立つことがあります。顧客やパートナーとの雑談の中で共通の話題が見つかり、そこから信頼関係が深まることもあります。あるいは、SNSやコミュニティで知り合った人との交流が、新しいビジネス機会につながることもあります。私は長年営業職に携わってきましたが、最終的に人と人との関係性をつくるのは、必ずしも専門知識だけではないと感じています。むしろ、「その人が何に興味を持ち、どんな世界を見ているか」によって会話の幅が広がり、新しい視点が生まれます。専門領域の知識はもちろん重要ですが、それだけでは見えない景色があります。興味のあることに少しずつ足を踏み入れ続けることは、自分の視野を広げるだけでなく、人とのつながりや人生そのものの豊かさにもつながっていると感じています。私の「インプットの流儀」を言葉にすると私にとってインプットとは、知識を蓄積することではありません。情報をどのように活用し、誰と共有し、どのような価値につなげるかまで含めて初めて意味を持つものだと考えています。そのため、私は最初から出口を一つに決めて情報を取り込むことはあまりありません。ある情報は顧客への提案につながるかもしれませんし、別の情報は新規事業のアイデアになるかもしれません。あるいは採用や組織づくり、業界コミュニティでの対話につながることもあります。振り返ると、インプットとアウトプットを別々に考えたことがほとんどありません。情報は常に人との対話や事業活動の中で循環し、新しい価値へと形を変えていきます。私のインプットの流儀を一言で表すなら、「情報は出口を決めずに取り込み、価値が生まれる場所へ流すこと」です。情報そのものを集めることが目的ではなく、その先にどんな可能性が生まれるかを楽しみながら向き合い続けたいと思っています。今回改めて自身のインプットの習慣を振り返ってみると、私が大切にしてきたのは「情報収集術」ではなく、「情報を循環させる力」だったのかもしれません。ニュースやレポート、顧客との会話、採用面談、コミュニティでの交流など、さまざまな場所で得た情報は、自分の中に留めるのではなく、人との対話や事業活動を通じて別の価値へと変換されていきます。AIによって情報へのアクセスが容易になった今だからこそ、何を知っているか以上に、その情報をどう循環させ、新たな価値や機会につなげられるかが重要になっていると感じています。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「専門領域の情報をどう選び、取り込み、仕事に活かしているか」を言語化する寄稿企画「#インプットの流儀」の一編です。情報源の選び方、取り込む習慣、整理・消化の方法、専門外からのインプットといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/input-style「インプットしているのに、うまく仕事につながらない」——そんな感覚は、多くのビジネスパーソンに共通するものです。本記事で描かれた情報の選び方・取り込み方・活かし方が、ご自身の型を見直し、次の一歩を踏み出すきっかけとなることを願っています。一人のエキスパートが培ってきた情報との向き合い方は、言語化され共有されることで、業界や職種を越えて応用できる知見になります。こうした知見がどのような現場で生まれているのか、続けてお届けしていきます。