決断し続けるために、決断する時間を設けない。次の新しい課題のために。 - 猪股勇人 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

意思決定のプロセスや基準を減らすことは、決断疲れや優先順位の混乱を整え、明確なトレードオフを伴う納得感のある選択につながります。

本記事では、決め方や基準をどのように見直してきたのか、その葛藤と変化、そして1週間で問い直せる実践の視点までを、コンサルタント(現在求職中)の猪股勇人氏の経験からひもときます。

判断基準を研ぎ澄ますことで、迷いに振り回されない意思決定の軸が見えてきます。

EXPERT

決断し続けるために、どんな意思決定プロセス・基準・情報をやめた/減らしましたか?

決断し続けるために、私は考える時間を設けることを止めました。私の決断について他の人を待たせるわけにはいかなかったからです。

私はこれまで長く、医療や介護の世界で事務方として過ごしています。そこでは、事務方においても日々膨大な量の判断を下す必要があるものです。正直、時間を掛けて検討したり、他の人の意見や見解を得たいと思う難題やトラブルが多数発生します。その上で生命にも関わる判断になるため、一刻を争う事態も時にはあり、相当シビアなものです。

そして私の判断は、現場のスタッフのみならず、もちろん患者や介護サービスの利用者の方など多くの方が待ちます。私はそうした日々の業務中で、どれだけ意思決定、判断にかかる時間を持たずに止められるかというアクションを起こしました。

その状態が続いていたことで、判断の遅れや質の低下はどのように生じていましたか?

それまで意思決定、判断に時間を要したのは、そもそも私自身の業務が未熟で、医療や介護といった世界に対し習熟していなかったのは否めません。かといって、時間を掛ければ適切な判断が出来るかというと、そうではない現実もありました。私自身が変化する必要があったのです。

医療や介護の現場で言えば、終末期ケアの場面がそうです。終末期ケアは今更ですが、ある日突然始まる世界です。ある程度日々の医療や健康管理で予測が付く場合もありますが、大多数は予期せず始まるものです。「〇月〇日」からこの方は終末期ケアが始まる、という計画性はほとんど持ち合わせていません。

そのような急きょ発生し、特に倫理的に重要な判断を余儀なくされる私に対し、スタッフや患者、介護サービスの利用者や家族は否応なくその判断を督促してきました。

その判断を見直す際に、最後まで捨てきれなかった基準や期待、トレードオフは何でしたか?

まず、決断に必要な時間を捨てようと思ったときに考えたのは、「それでも考えなければならない場合は何か」という問題の選別でした。医療や介護の現場において捨てきれない決断や問題を残すというより、時間を掛けてそれでも判断すべき問題は何かという判断です。

それは、地震や水害など天災や不可抗力でもありません。むしろこうしたアクシデントは、予め想定しておくべきもので、そこで時間を取るのはナンセンスです。

法人や会社の経営にとって、重大な判断や、改めて経営陣による判断、決裁がそれにあたります。特に経理財務にインパクトを与えたり、行政への対応などがそうです。とは言え経営陣による判断や決裁にしても、一定の共通認識や後述する基本的な方針の策定などにより時間の経時を短縮していく工夫を繰り返しました。

やめる・減らす判断をしたことで、今はどんな基準やルールで意思決定できるようになりましたか?

まず、私が判断する時間を極力持たないで業務を進めたいと思ったとき、基本的な方針/ポリシーの作成が必要だと考えました。それは当然医療機関や介護現場での話ですので、法人や会社の経営方針/クレドなんかと相関、相似の関係があるものです。

基本的な方針があることで、たまに発生するイレギュラーであったり、枝葉の話、レアケースに対する対応もスムーズに進むようになりました。また、週1回、短時間しか勤務しないというスタッフであっても、方針があることで、一定レベルの課題解決とリスク回避が自ら行えるようになっていきました。

もっとも、医療や介護現場のスタッフは、一定の「共通言語」を持ち合わせている人たちなので、自ら課題に対する議論を始めることは可能です。とはいえ、法人や会社としての方針が無ければ議論が着地しません。これにより、私が判断する事項も結果として縮小し、私自身の業務軽減にもなりました。

そして、医療や介護現場で発生しうるトラブルやエピソードに対する想定の繰り返しでしょうか。その想定を現場に共有し、様々な議論を繰り返す。自分自身で見えていなかった課題もそのようにすることでしか、解決できないものです。当然ながら判断基準は、自分一人では構築形成できないということでもあります。

もし意思決定・判断に迷っている人がいるとしたら、今すぐ1週間で問い直すとよい具体的なポイントは何だと思いますか?

まず、意思決定に悩むというのは、目前に様々な課題が横たわっているからなのでしょうか。「決断する時や、決断した後に、不安になったり悩む」というのは、それでもなお残される課題があり、課題の全体像が整理できていないからなのでしょうか。それは、医療や介護の世界に限らず、どのような職種業界でも言えるのかもしれません。

あと、意思決定や判断すべきラインの整理というのも検討してよいでしょう。必要以上に時間が掛かる意思決定は、日常業務に影響を与えるのでしょうし、そもそもご自身で判断する必要がある事項なのか、というのもあります。他に任せるべきは任せるという手放す方針も時には必要です。

あと、最後にこれは私自身にも言えますが「決めたら、迷わない」。最善の判断には日々の比較検討や準備が裏打ちされているのであれば、その決断は尊重されるべきだからです。私もAIを駆使しますが、それは補助線でしかないです。結局AIを駆使したということ自体も、周囲からは自身の判断として捉えられます。判断はビジネスのだいご味です。毅然と判断して明日につなげたいものです。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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