判断の質を保ち続けるために、どんな意思決定プロセス・基準・情報をやめた/減らしましたか?
結論から言うと、僕がやめたのは「決める前に全部わかろうとする情報収集」だ。
決断の前に、関係者全員の懸念をつぶす。
想定質問に全部答えられる資料にする。
追加調査を重ねて不確実性をゼロに寄せる。
……僕には、そういった理解のフルコンプを目指す癖があった。
新卒で配属されたR&D部門でシステムの開発を行っていた頃は、仕様が曖昧だと落ち着かず、ログを増やし、会議を増やし、確認を増やした。
営業や新規事業立ち上げを行っていた際には「相手の本音まで理解してから動く」に進化した。
経営企画部に来たら「経営会議で刺されない資料を作る」になった。
気づけば、決める前に全部理解を取りに行っていた。
達成できるはずがないのに。
ある日の深夜、PCのデスクトップに「最終版」という資料が3つ並んでいるのを見て、さすがに笑った。
最終版、最終版_修正、最終版_修正2。
……誰が得するんだ、これ。
そこで僕は順番を逆にした。先に枠を決める。
①いつまでに決めるか(タイムボックス)
②何を守るか(目的と非交渉条件)
③失敗しても戻れるか(可逆性)
この3つを、まず紙に書く。
すると「これ以上調べても結論が変わらないライン」が見えてくる。
僕は「わかってから決める」を辞めて、「決めるために必要な分だけわかる」に考え方を切り替えた。
わからないものは残していい。
ただし、残したことを自覚して進む。
だから、わからない点は「いつ判断に影響するか」だけメモして棚に置く。敵じゃなくて管理対象にする。
判断の質を守るために、僕は「知ること」より「決めること」を前に置くようにした。
その状態が続いていたことで、判断の遅れや質の低下はどのように生じていましたか?
結論は単純で、「全部わかろう」とすると、当然ながら判断は遅れる。しかも、最後は雑になる。
丁寧にしたくて始めたのに、疲れて「えいや」で決める。
これが一番まずい。
一番手痛かったのは、新規事業の立ち上げで協業パートナーと走っていた時だ。
相手は「走りながら仕様を固めよう」と言う。
こちらは社内で想定外を起こしたくない。そこで僕はつい言う。「一度持ち帰って、全体を確認してから戻します」と。
社内に戻ると、質問が増える。
「法務は?」
「情報セキュリティは?」
「収益責任はどこ?」
……全部正しい。
だから僕は全部取りに行く。
会議を入れ、メモを書き、資料を直し、また会議を入れる。
気づけば相手への返信が来週になる。
その頃の僕の口癖は「検討を進めています」だった。
便利すぎる言葉だ。前に進んでいる気分になれる。
使いすぎると、ちょっとした麻薬みたいになる。
でも相手からすると、結局こう聞かれる。
「で、いつ決まりますか?」
この一言で、頭が真っ白になる。
材料は集めているのに、決める覚悟がないからだ。
結果として、熱量は冷める。選択肢は減る。
最後は「やる・やらない」ではなく「残っているものから選ぶ」になる。
判断が遅いだけじゃなく、判断が受け身になる。
そしてもう一つ、地味に効く副作用がある。
情報を集めれば集めるほど、迷う理由も増えることだ。
論点が増える=賢くなった気がする。
でも実態は、決めるための論点ではなく、決めないための論点を増やしているだけだったりする。
返信が遅いほど、選択肢は細る。決まらない間に、相手は決める。
これを何度か食らって、僕はようやく「全部わかろう」は判断の質を下げる、と腹落ちした。
その判断を見直す際に、最後まで捨てきれなかった基準や期待、トレードオフは何でしたか?
最後まで捨てきれなかったのは「ちゃんとしていると思われたい」という期待だ。
理屈では、全部わからなくても前に進める。わかっていた。
でも感情がついてこない。特に若手の頃は、曖昧なまま決めてしまうと無責任に見える気がして怖かった。
僕はエンジニア出身で、論点を洗い出し、前提を揃え、因果を積むのが得意だった。
だからこそ「結局は仮説で決める」瞬間にプライドが引っかかる。勝負どころで、最後に残るのは仮説なのに。
経営企画に来ると、会議室には年次も経験も桁が違う人がいる。そこで「わからない」を残したまま提案するのは、胃がきゅっとなる。
わからない領域を突っ込まれたらどうする。
説明できなかったら信頼を失うんじゃないか。
そういう恐怖が、情報収集を正当化する。
やっていることは慎重。でも動機は保身。
ここを自分で認めるのが一番難しかった。
もう一つ、捨てきれなかったのは「全員を納得させたい」という欲だ。
反対意見をゼロにできたら、綺麗だし、安心する。
会議が平和に終わる。でも現実は、反対があるから意思決定になる。反対が消えるまで待っていたら、永遠に決まらない。
もちろんトレードオフもある。
情報を減らせばスピードは上がるが、その代わりに説明の安心感は下がる。
関係者の納得を全部取らない分、あとで火種が出る可能性も上がる。
だから僕は「全部わかろう」をやめる代わりに、二つをセットにした。
①燃えたら消しに行く覚悟。
②燃えない範囲を先に決める(上限・撤退条件・責任者)。
怖さをゼロには決してできない。だからこそ、怖さと一緒に進む。そこが現実だった。
やめる・減らす判断をしたことで、今はどんな基準やルールで意思決定できるようになりましたか?
今は「意思決定の前に、意思決定のルールを決める」で動いている。情報の量で殴るのをやめて、決め方の型でブレを減らす。僕の暫定解は、まず4つの質問に落とすことだ。
①期限はいつか
②これは可逆か(やり直せるか)
③賭け金はいくらか(失って痛いものは何か)
④責任者は誰か
若手の社会人でも習うようなビジネスパーソンの基礎教養レベルの話である。
でも、これを先に揃えると、必要な情報の種類が決まる。
たとえば可逆なら、70点で決めて小さく試す。
不可逆なら、決める前に「最悪ケース」だけは一度言語化する。賭け金が小さいなら学びを取りに行く。
大きいなら関係者を増やす。
ただし増やすのは人数じゃなくて役割だ。現場、数字、法務、セキュリティ…。必要なステークホルダーを揃えたら、あとは増やさない。
あと僕は「わからないものは、わからないまま棚に置く」をルール化した。
棚に置くと言っても放置じゃない。
「いつ判断に影響するか」だけ書く。
すると、わからないことが敵じゃなく管理対象になる。
これだけで精神的に楽になる。
会議の最後は、議事録を立派にするより「次に決めるのは何か」を一行で残す。次が動けば勝ち、という感覚だ。会議が終わった瞬間に次の会議を入れたくなる自分を止めるための、ささやかな呪文でもある。
経営企画やPMOの仕事って、結局「決める」か「決めさせる」かのどちらかだと思っている。
全部理解するより、「何を今決めるか」「何を今決めないか」を切り分けられる方が、判断は強くなる。
最近はそう腹落ちしている。
もし意思決定・判断に迷っている人がいるとしたら、今すぐ1週間で問い直すとよい具体的なポイントは何だと思いますか?
迷ったときに今すぐ一つだけ確認するなら、「その迷いは情報不足じゃなく、責任の怖さじゃないか?」だと思う。
情報が足りないから決められない、と言っている時ほど、実は「決めた後に何が起きるか」が怖いだけだったりする。
怖いものを情報で殴って黙らせようとしている感じだ。
1週間で問い直すなら、やることはシンプルにできる。
僕ならこうする。
Day1:決めたいことを一文にする。「〇〇を、いつまでに、どうするか」。主語と期限がない迷いは、だいたい永遠に続く。
Day2:外れた時の最悪を一つだけ書く。三つも書かない。増えると怖くなる。
Day3:その最悪を避けるガードレールを一つ決める(上限金額、対象範囲、撤退条件など)。
Day4:必要な情報を3つに絞って集める。
Day5:決める。
Day6-7:決めた後に小さく検証する。
大事なのは、決める前に完璧になることじゃなくて、決めた後に修正できる状態を作ることだ。
迷いが長い人ほど真面目で優しい。でも、優しさで決めないまま時間を溶かすと、チームも自分も消耗する。だからこそ、「全部わかろう」をやめて、まず“責任の輪郭”を描く。決めないことのコストも、ちゃんと見積もる。
もしそれでも迷うなら、最後にこれだけ。責任者の名前を一人だけ書く。自分でもいいし、上司でもいい。名前が書けた瞬間、議論は前に進む。迷ったら期限。期限がなければ、まず期限を作る。それだけで迷いは半分は解決する。
本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。
思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle
こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。
実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。



