ひとりベンチャー企業が拡大し続けるために、どんな意思決定プロセス・基準・情報をやめた/減らしましたか?まず前提として、弊社はヘルスケア/ウェルネス領域に特化したブティック型コンサルティングを提供しています。少人数で、迅速かつ高精度に、各社・医療法人固有の事情に合わせたオーダーメイド支援を行うスタイルです。競合との同質化が起こりにくい一方で、再現性の高い「型」を量産しにくく、事業としては構造的に生産性が低くなりがちです。例えばITコンサルティングは、方法論・体制・プロセスが標準化されているがゆえに、一定の品質を担保したまま人員投入でスケールしやすい側面があります。対して医療マーケティング(特に自由診療)を主領域とする弊社の支援は、様々な法規制や医療広告ガイドラインを把握したうえで、組織・診療方針・地域性・規制環境・経営者の価値観を考慮しプロジェクトを進めなければならないがゆえに、単純なパターン化が機能しません。ゆえに「数の受注拡大」そのものが成長の条件になりにくく、むしろ伸びしろのあるプロジェクト選別の精度が成長速度を規定します。この背景のもと、私が意識的に減らしたのは、意思決定をする際に、「過去の関係性に配慮する」ということです。具体的には「お世話になった方からの紹介だから」「長いお付き合いのある顧客だから」といった理由を判断基準に入れ、配慮することで、意思決定を歪めてしまう、もしくは判断を保留したり、撤退の判断を先送りしたりしないように意識しました。弊社のように稼働力が限られるスタイルにおいて、こうした既存関係への過度な配慮に引きずられると、リソースが分散し、結果として本来伸びるべき支援の成果と速度が鈍化します。私の場合、拡大のために必要だったのは関係性とは独立した意思決定、特に撤退基準に達した時の実行でした。その状態が続いていたことで、判断の遅れや質の低下はどのように生じていましたか?既存関係への配慮が働き、本来は「撤退」すべき局面でも判断が遅れたことは度々ありました。撤退が遅れると、より将来性があり、より成果が出せる案件にリソースを振り向けられなくなります。加えて、成果が出ない構造の案件を抱え続けることは、精神的負荷だけが蓄積し、支援の質にも影響します。事業としての合理性だけでなく、「自分は社会に価値を出しているのか」という職業倫理の観点でも消耗が大きかったと思います。中でも最も消耗するのは、支援先に「事業を積極的に成長させる意向」や「社会に価値を出す意思」が見られないケースです。財務状況の把握が甘いまま意思決定が続いたり、属人的・世襲的な人事によって組織が硬直している企業・医療法人は、少なくありません。こういった企業・医療法人の場合、いかに論理的に課題があることを伝え、実際に財務的な損失が生まれている現実を見せても、自ら変わろうとすることを拒否してしまいます。そのため、このような状況になった時点で、本来ならばこちらから関係を終了する必要があります。とはいえ、顧客を整理するという作業も容易ではありません。最大の課題は、「契約を終える」「次の契約を見送る」という判断を、感情面・評判面の懸念から先送りしやすい点でした。案件を受注する立場から「ここまでにしましょう」と明言することには強い抵抗感が伴います。その判断を見直す際に、最後まで捨てきれなかった基準や期待、トレードオフは何でしたか?最後まで手放し切れなかったのは、「創業期から支えてくださった顧客」という感情面での基準でした。会社が最も脆弱で、実績も信用も乏しい時期に最初に契約をいただいた経験は言葉にしづらい恩義があります。契約書に初めてご署名いただいた瞬間、法人の口座に初めて入金があった瞬間の喜びは、今でも鮮明に思い出されます。一方で、年月が経つにつれ、事業への気概や自組織への当事者意識が薄れていく顧客も少なからずいらっしゃいます。KPIの推移や意思決定の質を総合的に見ても、これ以上の事業拡大が見込みにくい兆候が重なっていた局面もありました。理屈では「選別すべき」と理解していながらも、「創業期からの関係性」と「伴走してきた時間」が感情的な引っかかりとなり、撤退の判断を鈍らせてしまった。ここが最も難しいトレードオフでした。加えて、弊社の支援スタイルは、昨今の潮流と比べても献身性が高いと自負しています。時間や曜日で線を引くのではなく、契約スコープの範囲内であれば昼夜問わず徹底的に伴走する。その前提に立つ以上、相手にも相応の覚悟と自己変革の意思を求めることになります。にもかかわらず、関係性の厚みゆえに判断を先送りしてしまう――この矛盾に最後まで悩まされました。やめる・減らす判断をしたことで、今はどんな基準やルールで意思決定できるようになりましたか?現在の暫定解として、意思決定の入口に置いているのは、「関係性は尊重するが、意思決定を拘束させない」という原則です。具体的には「1年以上前の恩義をひきずらない」という基準を設けました。恩義を忘れてはならない一方で、過度な配慮が自社の成長速度や社会への価値提供を鈍化させることも事実です。変化の激しい業界である以上、これが現時点でのギリギリの線引きだと考えています。更には、価値観が変動しやすいこの御時世、「勝つために何を犠牲にしているか(=覚悟の具体性)」を、依頼者自身の言葉で語り続けていただくことも重視しています。犠牲の対象は問いません。予算でも、時間でも、組織改革に伴う痛みでもよい。極端に言えば、生活の一部を削るというレベルの話でも構いません。重要なのは、その犠牲が「言語化され、合意され、実行されているか」です。本気で勝つ意欲のない組織を応援することはできません。合理性だけを追えば判断は無機質に最適化できます。しかし、医療・ヘルスケアの現場を変えるには論理だけでは足りません。変革にはエネルギーが要り、そのエネルギーは覚悟と一体です。私が提供したいのは単なる効率化ではなく、変革を実装し、勝ち切るところまで伴走する支援です。その最低条件として「直近の恩義」と「覚悟の具体性」を重視するようになりました。もし意思決定・判断に迷っている人がいるとしたら、今すぐ1週間で問い直すとよい具体的なポイントは何だと思いますか?もし意思決定に迷っている方がいるなら、見直すべきポイントは明確です。顧客ポートフォリオを棚卸しし、基準に沿って整理することです。独立や事業拡大の相談を受ける機会が増えましたが、私は一貫してここを強く勧めています。実力がある限り、仕事は再び入ってきます。むしろ、成果が出ない案件に時間を奪われることこそが機会損失です。小規模なフェーズでは、すべてを自分で意思決定できる反面、判断基準が曖昧だと「断れない」「続けてしまう」ということが起こりやすいです。だからこそ、自分の上にルールを置くことが必要です。撤退基準を先に定義し、その基準に従って機械的に整理する。これが、ブティックコンサルとして限られた案件に最大のパフォーマンスを発揮するためのプロフェッショナリズムだと考えています。なお、顧客整理とは「既存顧客を切り捨てる」という意味ではありません。現在も創業期から伴走させていただいている顧客は数多くいらっしゃいますし、無二の親友のような感覚にも陥ります。ただし、長期で成果を出し続ける関係には、相互の覚悟と適切な緊張感が不可欠だと考えています。だからこそ、双方の成長に資する形で、関係性を健全に更新し続けることを重視しています。私の信条は「正しい仕事に仕事は集まる」ですが、より正確に言えば、「正しく選んだ仕事に、仕事は集まる」ということです。顧客とは対等であるべきであり、そのための適切な緊張関係を維持できるよう、今後も意思決定の速度と規律を高めていきたいと考えています。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyleこうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。