本質に向き合い続けるために、なぜ「分かりやすい正解を提示すること」をやめたのか - 長谷部寿大 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

意思決定のプロセスや基準を減らすことは、決断疲れや優先順位の混乱を整え、明確なトレードオフを伴う納得感のある選択につながります。

本記事では、決め方や基準をどのように見直してきたのか、その葛藤と変化、そして1週間で問い直せる実践の視点までを、SMERKS 代表の長谷部寿大氏の経験からひもときます。

判断基準を研ぎ澄ますことで、迷いに振り回されない意思決定の軸が見えてきます。

EXPERT

本質に向き合い続けるために、どんな意思決定プロセス・基準・情報をやめた/減らしましたか?

私は「答えになる」や「分かりやすい正解」を提示するということをやめました。

その背景は、正解を出すことよりも、正解を出せる状態を作ることの方がずっと力強い事であると、改めて感じているからです。

現在の私の仕事は、企業様の課題解決へ向けてアドバイザーとして活動しておりまして、研修やプロジェクト型の推進、1on1など、段階に合わせながらご支援をさせていただいております。アドバイスすることを仕事にしているのに「答え」や「分かりやすい正解」を提示しない、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、そういう判断/意思決定をしたのには理由があります。

元々は、テーマや課題に対して、出来るだけ整理された結論を出してあげることが良いだろうと、求められていると考えていました。構造化したり、選択肢を出したり、質問に対して論点をまとめて端的な答えを出したり、そういったことですね。実際、瞬発力があり一定の成果にも繋がりやすい場合が多くあります。

しかし、その場では納得感もあり行動も起き、空気も変わるのに、継続性や再現性が生まれずどこかで止まってしまう、という様なケースもまた多くありました。

自身としてもこだわっているのは継続性と再現性を持たせることなので、そこに行き着かないのでは意味がないわけで、どうすれば?と問い返しながら考えていた時に「答えで終わらせている」ことが問題だろうと、ようやく気付いたわけです。「魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ」ということなんですが、相対するとズレることも多かったというのが振り返ってみた感じです。

目の前の課題だけに対応し完結させることは、問題の核に到達していないことが多いです。その課題を生み出している前提や構造に触れることを優先するということは、表面の事柄よりも深さを優先するという判断をしたということになります。

その状態が続いていたことで、判断の遅れや質の低下はどのように生じていましたか?

続けていたことで起きていたのは「質」への影響です。

分かりやすくまとめて正解や答えを提示するというのは、その時の納得感には繋がりやすいと思います。研修などでも積極的に質問や参加してくださる方も多く、それはとても素晴らしいことだと感じる反面、「答え」を前提とした問いかけが多くなり、相手の「思考」を止めてしまっているかもしれない、そう感じるようにもなりました。次第に相手の思考が止まっていく、その流れに自分が影響しているのではないだろうかと、そう感じられることが増えてきたことが一つのきっかけです。

その場では理解したようにも見えるし、メモも取る、頷きもある、局所的な改善は起きています。でも、前提や構造は変わっていないので、本当の意味での課題解決にはつながらず、結果的に問題は形を変えて再発してしまいます。

企業様の成長や課題解決をご支援させていただく立場でありながら、自走できる再現性を持たせるどころか、考えなくて済む答え依存の構造を作ることを、自分がしてしまっているのではないかと気づいた時の後悔はとても大きいものでした。

組織も個人も持続的に強く成長するためには「答え依存」ではなく、本質を構造的に見に行く思考力と実行力が必要だと考えていますが、そこに繋げていくためにも、改めて自分自身の中における基準を見直していく必要があるなと感じさせられていました。

その判断を見直す際に、最後まで捨てきれなかった基準や期待、トレードオフは何でしたか?

少し矛盾のように感じるかもしれませんが、「不安感」を振り切れるかどうか、正解出せば選ばれやすいという迷いが、最後まで残った部分でもあります。

独立して事業を営んでいる立場ですから、「選んでいただける」かどうかということはやはりいつも頭の中に残っており、不安との戦いでもありました。求められることに、答えを提示していくということは、即効性も出やすく分かりやすいです。でも、前項の通り、本質の改善には繋がらない。自分の頭の中では分かっていても、なかなか踏み込めないことも少なくありませんでした。仕事が減るかもしれない、理解してもらえないかもしれない、そんな不安感は大きなものです。

実際に、やはり表面上の極所解決では本当のご支援に繋がらないと思って、踏み込んでお話をしていったら「もっと具体的な正解が欲しい」という様な事を言われたこともあり、ご支援が継続できなかった経験もあります。

ただ、「不安感」と同じくらい自分の感情に残っていたのは、企業様の本当に変えたいと思っている事の「本質」に辿り着けなかったこと、それはただただ自分の力量不足で、そこに繋げてあげるようなご支援をできなかったこと、それだけです。

本質に踏み込むには、時には耳の痛いこともお伝えしなければいけないこともあります。極所解決によって仕事を頂くか、本質と向き合うことで企業様の継続的な成長をご支援するのか、この現実的な不安と自身の願いとの葛藤は、なかなか簡単に振り切れるものではなかったです。

やめる・減らす判断をしたことで、今はどんな基準やルールで意思決定できるようになりましたか?

現在大事にしているのは以下の点で、

  • 本質と向き合っているか

  • 問題解決や成長のために必要な構造変革の設計になっているか

  • 持続可能/再現性はあるのか

  • 現場で機能することはできるのか

自分自身がこの4点を説明できないようであれば、どれだけ整っているように見えても一度立ち止まるように意識しています。

事業を動かしているのは現場です。整ったロジックも、実働部隊の動きに繋がっていなければ実行されませんし、実行できなければ変化にも繋がらず、それは理想論にしかなりません。

問いを置きながら、一緒に構造を見に行き、問題点を構成している課題の特定とその背景、そして現場で機能する設計に時間をとるように重心を変えました。

この4つのポイントを意識しながら向き合っていくことで、変革をどれだけの本気度で考えているかという覚悟を見ることもできますし、自分自身にとっての覚悟にもなります。でも、まだまだ自分自身の改善も必要ですし試行錯誤は繰り返しています。

それでも、本当に触れていかなければいけないところはどこか、ここに繋がるご支援になるように向き合うようにしています。

もし意思決定・判断に迷っている人がいるとしたら、今すぐ1週間で問い直すとよい具体的なポイントは何だと思いますか?

「それは、何を守るために迷っているのか?」
そう自分自身に聞いてみるといいかもしれません。

  • 安心を守りたいのか

  • その場を収めるために整えたいのか

  • 構造の幹ではなく、枝葉だけ見ていないか

そういった点です。前項までの話に繋がってしまうかもしれませんが、「本質」は何なのかを見失わないように問いかけてあげるといいと思います。

本質を見た結果、時には摩擦を生むこともあるかもしれません。実は幹ではなく枝葉だけを整えることをしていたかもしれません。枝葉を整えるのは安心に繋がりやすいですが、幹に触れなければまた同じ場所に戻ってきます。中長期で考えていくと、その事柄の本質からブレずに向き合っていくことで、自ずと様々な決断や意思決定の精度が変わってくると思います。

それは優先順位や、力の強弱、伝え方や考え方、様々な方面で自分自身の背中をそっと押してくれると思います。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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