専門性を発揮し続けるために、「何でもできる」をやめた理由 - 岡下真弓 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

関わる役割や領域を手放すことは、分散していた力を一点に集め、リスキリングや強みの再定義を通じて本来の専門性と価値発揮を際立たせます。

本記事では、どの仕事や役割を減らしてきたのか、その迷いと判断、そして価値の出し方がどう変わったのかを、大手IT企業 ヘルスケアビジネス本部・個人事業主の岡下真弓氏の経験を通して描きます。

自分の強みを再定義することで、長期的に価値を出し続けるキャリアの輪郭が見えてきます。

EXPERT

専門性を発揮し続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?

薬剤師として25年以上現場に立ち、薬の知識だけでなく、患者さんの生活背景や感情まで含めて対応してきました。その経験から、健康相談、オンライン診療、DX、新規事業など、幅広い領域で声をかけていただくようになりました。頼られること自体はありがたく、「できるのだから応えよう」と考えてきました。

しかし、次第に自分の役割が曖昧になっていることに気づきました。調べれば分かる情報整理、短期的な資料作成、実装やスピード重視の業務など、「医療として正しい判断をする」「社会課題と結びつけて整理する」という、私が最も価値を出せる部分に十分な時間とエネルギーを割けなくなっていました。

また、年齢を重ねるにつれ、スタートアップやDX領域で若さや最新技術そのものを競う役割に無理が生じていることも自覚しました。

そこで、調査・実装・短期成果狙いの案件や、専門性がぼやける役割を減らし、「判断」「整理」「伴走」に集中する選択をしました。関与を減らすことは勇気のいる決断でしたが、仕事を続けるために必要な引き算だったと感じています。

その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?

実際に何度も求められているのは判断ではなく作業になっていることはありました。

医療や健康、DXや新規事業の相談を受ける中で、私は本来「これは医療として正しいのか」「生活やキャリアにどう影響するのか」といった判断の部分に価値を出したいと考えていました。しかし実際には、調べれば分かる情報整理や、短期的な資料作成、単発の意見出しなど作業的な側面が求められました。

「助かりました」と言われる一方で、「この仕事は私でなくてもいいのではないか」という感覚が拭えませんでした。
経験を積み重ねてきたはずなのに、その経験が意思決定に活かされないまま消費されていく。その違和感が、専門性が薄れているという実感につながりました。

手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?

「頼まれれば応えられるのに断る」ことが、いちばんの葛藤であり今もまだジレンマに陥っています。

長年の経験がある分、声をかけていただく機会は多く、「できるのにやらないのは、もったいないのではないか」「お役に立てる機会を逃していないか」と何度も自問しました。
また、周囲からは「幅広く見られるのが強みですよね」と言われることも多く、自分が引き算をしようとする意図が理解されにくい場面もありました。

実際、仕事の幅を狭めたことで、依頼の総量は一時的に減りました。収入面でも不安がなかったわけではありません。それでも、「何でもできる人」でいることと、「判断を任される専門家」でいることは、両立しないと気づいたことが、最終的な判断を後押ししました。

手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?

今は「情報や選択肢が溢れる中で、医療として・生活としてどう判断するか」を一緒に考える役割に集中できています。仕事の幅を意識的に狭めたことで、調査や作業、短期的な成果を求められる役割から一歩引き、思考に時間を使えるようになりました。

オンライン診療、健康相談、更年期、キャリアといったテーマは、正解が一つではなく、制度、テクノロジー、個人の価値観が複雑に絡み合います。

そこでは、単なる知識量や最新情報よりも、「この人にとって今どの選択が妥当なのか」を整理し、判断を支える力が求められます。

AIの進化によって、情報そのものは誰でも簡単に手に入る時代になりました。だからこそ、その情報をどう読むか、どこまで信じてよいのか、今の文脈で使ってよいのかを見極める力が重要になります。

私は、医療現場での長年の経験を、知識としてではなく、判断の軸として使うことに価値を置くようになりました。
今は「何を知っているか」よりも、「どう考え、どう線を引く人なのか」を求められる仕事が増えています。

手放したからこそ、自分が本当に価値を出せる専門性に集中できていると感じています。

もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?

ちょうど今日もアドバイスしたのですが、まずはこの1週間で、「自分が何を判断しているのか」を言葉にすることを勧めたいです。

価値が分散していると感じる多くの人は、能力が足りないのではなく、むしろできることが多すぎる状態にあります。
その結果、頼まれる仕事をすべて引き受け、気づけば「何でもやっている人」になってしまう。

そこでまず、直近1週間の仕事や相談を振り返り、「自分はどんな問いに答えていたか」「どんな判断をしていたか」を書き出してみてほしいと思います。もちろんスマホに音声を入れるだけでもいいです。

次に、その中で「自分がいなくても成立する仕事」と「自分だからこそ意味があった仕事」を分けてみてください。
後者に共通する視点や思考の癖が、あなたの本当の専門性だと言えるでしょう。
役割や肩書きではなく、「どう考える人なのか」を言語化することが、引き算の第一歩になります。

最後に、今後1週間で引き受ける仕事について、「これは判断を求められているのか、それとも作業なのか」を意識してみてください。すべてを一度に変える必要はありません。1つ断る、1つ減らすだけでも、思考の癖は養われるでしょう。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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