家づくりを正しく導き続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?「家づくりを正しく導き続ける」ために、自社商品を売るための戦略立案と組織管理の役割を手放しました。大手メーカーの研究所や営業推進部で28年間、技術開発から販売戦略までを歴任してきました。そこでの役割は、当然、自社の優れた技術を、自社の利益に最大化して繋げることでした。しかし、自ら登壇し、延べ1万人以上のお客様や営業マンと向き合ってきたセミナー、研修。そして現場での経験を通じ、ある現実に直面しました。それは、本当に良い家を求めているのに、価格や情報の壁で「買いたくても買えない」人や、情報過多の中で「自分に合わない選択」をして後悔している生活者が大勢いるという事実です。組織のリーダーとして自社の数字を追う立場にいる限り、こうしたお客様と中立な立場で寄り添い、真に最適な選択肢を提示することには限界がありました。そのため、特定のメーカーを背負う看板や、短期的な成約率を最大化させる組織マネジメントの役割をあえて手放す決断をしました。その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?当然、全ての人が今、この瞬間に住宅を買った方が良いわけではありません。自社商品を売る責任から解放されたことで、今まで培った建築の技術知見を、目の前のお客様にとっての正解を導き出すためだけに100%注げるようになりました。具体的には、個別の相談に対して各社の工法のメリット・デメリットをフラットに解説したり、無理な購入を控えるようアドバイスするといった、組織にいては難しかった、真に誠実な助言が可能になっています。また、現在は大手から地域工務店まで幅広くコンサルティングや研修を行い、指導経験を活かして、現場の営業担当者が「お客様の不安を払拭する正しい技術」を学べる場を作っています。また、note等の発信を通じて、制度改正や業界の裏側を生活者に分かりやすく届ける活動にも注力しています。「買いたくても買えない人」や「間違った選択で後悔する人」を一人でも減らすために、技術と生活者を正しく繋ぐ。プロとしての専門性を、ようやく本来あるべき形で社会に還元できています。手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?組織を離れ、一個人になった瞬間、手のひらを返すように去っていく人が少なくありませんでした。これまでは自分の実力だと思っていた信頼の多くが、実は会社の看板に対して付いていたものだったのだと痛感させられました。しかし、それは去っていった人たちが悪いのではなく、看板がなくなった途端に価値を感じさせられなくなった自分自身の力のなさの問題です。一方で、そんな状況でも変わらず声をかけ、本当に困った時にそっと手を差し伸べてくれる方々の存在には、言葉にできないほど救われています。今は、去っていった人たちの手のひらが、いつかまた今の自分を見て返ってくる日が来る。そうです、手のひらは返りやすいんです。まずは自分の価値を日々積み上げることに全力を注いでいます。安定した組織の信用は失いましたが、代わりに本当の信頼で繋がる人間関係と、自らの腕一本で勝負する覚悟を手に入れることができました。過去の看板を手放すことは怖くもあり、もったいなくもありますが、捨てたことにより出会える新しい経験や、ビジネスパートナー、友人と出会えるチャンスでもあります。手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?情報の受け手である生活者や現場の営業担当者が、迷いなく次の一歩を踏み出せるように情報を加工、調理して届けることに集中をしています。以前は自社を際立たせるのが仕事でしたが、今は業界全体を俯瞰し、複雑な制度改正や氾濫する情報を使いやすく整理する役割を担っています。特定のメーカーに縛られない立場になったことで、「お客様の不安を払拭する技術やトークを学びたい」という営業現場からの切実な相談や、忖度のない住宅選びの真実を教えてほしいというお客様からの要望がダイレクトに集まるようになりました。大手から地域工務店までを横断し、それぞれの強みを活かした企画や改善に並走できる今、自分が知らない技術や情報がこんなにも多かったことに日々ワクワクしています。人材不足や建築費高騰など、建築業界に問題があることは事実ですがそれを払拭する技術や可能性も生まれてきています。note等での発信も含め、今までの実務経験を特定の利益のためではなく、後悔しない家づくりを求めるすべての人へ還元することを目標に、全エネルギーを注いでいます。もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?もし、今の仕事に自分の価値を見出せないのであれば、仕事だけを切り取るのではなく、生活のすべてを含めた360度の視点で、自分自身の未来史を書いてみてください。この1週間で、一人の人間としてどう生きたいかというゴールから逆算してみるのが一番の近道です。どんな人間になりたいのか、その時、家族は?友達は?仕事でつまずく人は、人生を仕事だけに注力させて考えている可能性がありますが、人生は思ったより長く、そして広いです。組織ではなく、一人の人間として誰のために時間を、人生を使いたいかを確認してほしいのです。仕事に拘束される時間が長いので、それが全部と勘違いしがちですが、仕事は人生の一部、ご飯を食べるための手段の一つです。そんな手段に人生を翻弄されるのは本末転倒です。看板を外した時、最後に残るのは何でしょうか?今の仕事が、働き方が、大切な家族や友人に胸を張って語れるものになっているでしょうか?未来の自分は今の自分をみて褒めてくれるでしょうか?価値が分散しているのは、生活の一部に過ぎない組織の正解に、自分を合わせすぎているからです。アナログの紙と鉛筆での作成がお勧めです。自分史を書きましょう。まずは自分で自分と向き合う時間を持ちましょう。きっと様々な可能性に気がつくと思います。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyleこうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。