変化に対応し続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?航空機を作る現場で翼や胴体が組みあがっていく。その迫力と達成感から自分は航空機の組立の専門家として生きていくと思っていた。しかし、その後のキャリアは現場から離れる方向へと進みます。私はそれを、専門を手放していくことだと思っていました。キャリアパスも製造現場を中心に思い描いていた。特に開発を担当したときは、工場に生産ラインを設置する、そこに初号機が流れ始める。自分が計画した通りになることよりも、思い通りにならないことの方が多かった。その都度、上司や仲間と議論し、解決策を見つけてきた。これまで開発に携わった初号機出荷の時、皆とおさまった写真は宝です。それが、30代後半に計画管理部門に異動になった。目の前でモノを作る立場から組織全体の動きを決める立場へと変わった。その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?組立の専門家という専門性は薄れていると思いました。いかに生産性を上げるか?とか起きてしまったトラブルにいかに対応し納期を守るか?安定して生産するにはどうするか?といった組立とそこにいる人と一緒になって活動することがなくなり、モノへの距離が離れたことで専門性も離れていくと感じました。しかし、それ以上に自分の視野の狭さは痛感しました。一つの仕事が、どれほど多くの人や仕組みに支えられているか?情報はどのようにつながっているのか?といったことを知った。また、自分の作る指針で関係する部門が動くということがわかり、実は自分はまだ組立とはつながっていると理解するようになっていました。製造現場にいないことが専門性を薄れさせると感じていたのだと思います。手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?ベトナムでの赴任です。組立を行う生産子会社に社長として行きました。目の前には製造現場がある職場に戻りました。役割は若いころとは違うのでベトナムの現地スタッフと日本人が一体となり、生産性をあげ、品質を守り、お客様から評価される姿をみて、自分の役割は彼らが活躍できる場を作ることだと思いました。また、製造の前段階である調達部門に異動してさらに製造現場からは遠くなったが、今思えばさらに視野を広げる機会になった。組立に至る部品製造、材料の調達などより視野広くみたり、アジアの航空宇宙産業の急成長を目の当たりにしてきた。そこには組立を深くというより航空宇宙産業の中の自分の役割を意識するようにスイッチした。目の前の現場の注目から外から中を見ることで組立(専門)を捨てるのではなく、組立(専門)をより広い形で生かすために離れただけだった。手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?今は、サプライチェーンを軸に行動している。自分の製品のサプライチェーンを広くみるようになった。長らく経験したが、もっと体系的に学びたいと思い、MITのオンラインコースを受講した。その中でサプライチェーンとは顧客、自社、取引先の間のモノと情報とお金の3つの流れをマネージすることという定義付けが印象に残っています。学ぶ以前は自社と取引先がサプライチェーンのカバー領域と思っていたが、顧客も含める視点は薄かった。ここでの学びは自分の糧となっています。また、End-to-Endという言葉を意識しています。サプライチェーンは幅広いので、自分が見ている範囲はどこからどこまでか?相手が話をしている範囲は自分と同じか?があっていないとコミュニケーションがちぐはぐになる。だから、相手の話を聴いて違いがあれば、その違いにどう対応するかを自分なりに決めて対応しています。また、最近のサプライチェーンの話題はデータ、AIといった領域も含んでいるので新しい知識、経験を入れようと動いています。サプライチェーンをデータやAIを適用することでプロセスを変え、これまで苦労していた部分を楽にすることに楽しく挑戦しています。もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?自分の専門はこれでいいのかと悩むこともあると思います。価値が分散しているとはどういうことなのか?何がもやもやにつながるのかを整理されたらいいと思います。私の場合、組立の経験、計画管理の経験、ベトナムでの駐在、調達からサプライチェーンの視点と足してきていました。その中で学んだことやその時その時のお世話になった方、目の前に製造現場がある環境を引き算しています。今感じるのは、引くことですべてがなくなるのではなく、残るものがあります。新たに足すことを残ったもの、ことと掛け合わせることで、新たな視野で物事を見ることができるようになったと思います。また、一人では悶々としてしまうので、私は生成AIを活用してみました。自分でキャリアの棚卸をするプロンプトを入れるのでなく、キャリアを振り返るのでいくつか質問してと指示しました。質問に答える中で、自分の価値で分散しているのか、エッセンスとして掛け合わせるものがあるのではないか?と気づきにつながりました。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyleこうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。