変革を支援し続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?私は、組織人事、コーポレートガバナンス、サステナビリティの3つを主軸に、コンサルタントとして活動しています。これらは互いに関連性が強く、当初はクライアントの要望に応える形で幅広くサポートを提供していました。結果として、支援領域は年々広がっていました。転機となったのは、近年のコーポレートガバナンスを取り巻く環境の変化です。2015年のコーポレートガバナンス・コード施行以降、日本企業の外形的なガバナンスの整備は一通り進んだものの、本質的な企業価値向上に繋がる改革は道半ばでした。状況が動いたのは2023年頃からです。東証による資本市場改革等の後押しもあり、上場企業には資本効率や中長期的な企業価値向上に直結する、実効性の高いガバナンスへの進化が強く求められるようになりました。この流れを受け、私は広範な実務支援から、より高度な判断が求められる領域へと注力ポイントを移しました。オペレーショナルな実務や定型的な情報開示のサポートを減らし、以下のテーマにリソースを集中させています。取締役会や監査等委員会、指名・報酬委員会の実効性向上サクセッションプランの策定や経営リーダーの育成計画戦略的な役員報酬制度の構築アクティビスト対応を含むガバナンス強化これらは、日本企業が直面する「稼ぐ力の強化」という本質的な課題に対し、前提となるガバナンスを盤石にするために欠かせないテーマです。領域を広げて「何でも対応できる」状態を維持するよりも、経営の根幹を支える意思決定支援に特化することが、クライアントへの最大の貢献につながると判断しました。その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?広範な領域を網羅的に支援していた時期も、実務を円滑に遂行する点ではクライアントから高く評価されていました。しかし、日々の膨大な作業や運用支援に追われる日々は、本来の強みである「戦略的な視点での企画・実行支援」に割くべき思考リソースを、少しずつ分散させていくことになります。もちろん、企業側の実務の負担を軽減していくことは、重要で価値のある支援といえます。ただ、私自身がそうした実務の実行支援に時間を奪われるほど、専門家として本来向き合うべき高度な問いに、十分な時間を割けなくなるジレンマも抱えていました。特に、私が支援する領域はいずれも変化が速く、全方位を追いかけようとすれば情報の表面的なキャッチアップに終始しかねません。そうなれば、目の前の企業固有の課題を深く洞察する前に、他社事例に基づいた「標準的な解決策」を提示して安全圏に逃げ込んでしまう。そんな専門性の希薄化に対する懸念が、私の中で日増しに強まっていました。クライアントが真に求めているのは標準解の提示ではなく、自社の変革を促す深い洞察だと考えています。そのため、自身の強みと顧客の高度なニーズを合致させるためにも、注力領域と役割を絞ることが重要だと考えました。手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?役割の見直しにあたって、私は「広く浅い関与」から「深く狭い関与」へと自身の支援形態を転換しました。また、これに伴い、顧客属性についても、上場企業中心へとシフトし、支援の在り方も変化させていきました。かつては、複数の異なる領域の案件を並行して抱えることでリスク分散を図っていましたが、ガバナンス領域は企業の根幹に関わるため、一社一社の支援が自ずと長期化・深化します。そのため、案件数を追うのではなく、限られた社数に対してどれだけ深くコミットできるかという点に重きを置くようにしました。結果として、浅い関与を多数続けるよりも、特定の重要テーマで深い信頼関係を築くほうが、プロフェッショナルとしての介在価値は高まりました。現在は、単発のプロジェクトや一過性の支援ではなく、企業の成長フェーズに寄り添い、ガバナンスの質を高め続ける長期的な支援を重視しております。手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?注力領域を絞ったことで、現在は制度や仕組みの構築という枠を超え、それらをいかに機能させるかという「意思決定の質の向上」に深く関与できるようになりました。具体的には、形骸化しがちな取締役会や指名・報酬委員会等の各週委員会の議論を活性化させることや、成長戦略と連動した役員報酬の設計や、10年以上先を見据えた経営リーダーの育成計画を具体化するなどの支援が増えています。また、昨今の重要課題である資本市場への対応においても、単なる情報開示に留まらず、自社のガバナンス強化が企業の持続的成長にどう直結するのか、株主や投資家との建設的な対話を促すコミュニケーション設計まで踏み込んで提案しています。こうした関与において求められるのは、教科書的な正論ではなく、各企業の組織風土や歴史的背景を深く洞察した上での独自の解決策の提案です。領域と役割を絞ったからこそ、専門性が強化され、説得力を持った提言が可能になったと手応えを感じています。もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?自身の価値が分散していると感じる場合、私はまず「その仕事における判断の独自性」を基準に見直します。自分であればどう動くかを考える際、以下の2点を自問するようにしています。一つは、その業務において「自分にしか見えていない違和感」があるかどうかです。もし、教科書的な手順で誰もが同じ結果にたどり着ける仕事であれば、それは自分が担当し続けるべき領域ではないと考えています。もう一つは、その仕事が「自分の専門性の強化」に繋がるかどうかです。単なる知識の切り売りや作業代行的な仕事は、自分の価値を徐々に削っていきます。他方で、今の知見を使いながらも、新しい視点や深い洞察を求められる仕事は、専門性の強化に繋がり、優先的に取り組むべき仕事と考えます。一週間という短い期間で取り組むなら、まず自分の時間を「作業」と「思考」に分け、作業の割合が8割を超えている部分を特定することから始めます。その上で、その作業が顧客のどんな本質的課題につながっているかを改めて整理し、直結していないものは他者に任せるか、関与の度合いを下げていきます。自分が最も鋭い意見を言える場所に立ち続けるために、あえて隙間を作る勇気を持つことが、結果としてプロフェッショナルとしての価値を高めることになると考えています。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyleこうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。