価値を出し続けるために、「全部できる」をやめた - 稲田環菜 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

関わる役割や領域を手放すことは、分散していた力を一点に集め、リスキリングや強みの再定義を通じて本来の専門性と価値発揮を際立たせます。

本記事では、どの仕事や役割を減らしてきたのか、その迷いと判断、そして価値の出し方がどう変わったのかを、株式会社WeFLY 代表取締役 キャリアコンサルタント/大学教員の稲田環菜氏の経験を通して描きます。

自分の強みを再定義することで、長期的に価値を出し続けるキャリアの輪郭が見えてきます。

EXPERT

価値を出し続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?

わたしは、「全部できる人」になるための案件を減らしました。専門軸から外れたPR支援、マーケティングの資料作成、イベント制作や広報代行など、頼まれると断れず引き受けていた周辺業務です。

起業当初は実績も基盤も薄く、声がかかること自体が価値の証明に見えましたし、「断ったら次は来ないかも」という怖さもありました。正直、前職での実績を活かした「すぐできる案件」を振ってくれる有り難さは大きかったです。さらに、忙しさが安心材料になっていた面もあります。

けれど案件が増えるほど準備時間は分散し、学びも浅くなり、提案が“便利さ”に寄っていく感覚がありました。結果として自分の専門を一言で言えなくなり、発信の焦点もぼやけていくことになりました。

そこで、軸に直結しない関与は意識的に手放しました。自分の時間を守るためです。

その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?

成果が出ていないわけではありませんでした。むしろ一定の評価をいただけたり、手応えも感じていました。

それでも違和感があったのは、「何の専門家なのか」と聞かれたときに、一言で答えられなかったからです。案件ごとに語り口が変わり、軸がぼやけていく感覚がありました。忙しさはあるのに、深まりがない。準備も毎回ゼロからになり、積み上げが効かない。経営にも教育にも関わっているのに、それを追い求めれば追い求めるほど、自分の強みの輪郭が曖昧にぼやけてくる気がしたのです。

このままでは専門性ではなく便利さで選ばれる、と危機感を覚えました。この延長線上に10年後の自分を置いたとき、自分が自信を持って仕事をしている姿が想像できなかったことが決定打でした。

手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?

手放す際の最大のトレードオフは「短期の売上」と「人間関係の安心感」でした。断れば収入が減るかもしれない、紹介が止まるかもしれない、という現実的な不安がありました。加えて、周囲からの期待もありました。前職での実績をもとに仕事を任せていただいているのに、あえて断ってしまうことに申し訳なさを感じました。また、一つの仕事を終えるたび、やりがいや自己肯定感も増えてきます。これを手放していいのかなと思いました。

一方で、やはり広げ続けるほど自分の輪郭が薄くなる感覚も強まっていきました。

そこで、目先の機会損失より、専門性の一貫性を選びました。全部を握らない代わりに、残す領域では深くコミットする、と決めたのです。派手さのある案件や露出の機会も減りましたが、後悔より納得感のほうが大きかったです。

手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?

いまは人材・組織マネジメント、特にグローバル人材育成という軸に集中しています。取材、広報、マーケティング等の仕事を引き受ける際も、人材・組織マネジメントの軸に関わる内容を選びます。異なる文化や価値観を前提に、採用・育成・配置をどう設計すれば、多様なメンバーが協働し成果を出せるのか。企業側の制度やマネジメントだけでなく、個人側のキャリア自律や移行期の支援まで含めて扱えるようになりました。

その結果、「海外人材を受け入れる体制を整えたい」、「多国籍チームの摩擦を減らしたい」、「外国人社員の定着と成長を両立したい」といった相談が増えています。

以前のように“何でも相談できる人”ではなく、“この文脈なら任せたい人”として声がかかる。大学教育も企業支援も同じ軸で語れるようになったことが、いまの最大の変化です。

もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?

もし自分の価値が分散していると感じるなら、「仕事の棚卸し」を1週間でやるだけでも変わると思います。

予定表を見て、各タスクに「これは本当に自分がやるべき仕事か」、「自分でなくても成立するか」、「再現性はあるか」、「3年後の専門性につながるか」。これらの問いで、いま持っているタスクを仕分けるだけでも見え方は変わります。忙しさは価値の証明ではありません。時間の使い方こそが専門性を形づくります。全部を握るのではなく、あえて手放す。引き算は弱さではなく、意志だと思います。

まずは今週の予定からその「見極め」を始めてみると、いま自分がどこに向かっているのかが見え、自分の時間への集中力が戻ってきます。さらに「その仕事は、誰のためにやるのか」、「意思決定の鍵は何か(誰か)」を考えると、さらに将来に向けた思考が深まってくると思います。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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