コミュニティ運営を続けるために、どんな役割・責任・業務をやめた/減らしましたか?ボランティア前提のコミュニティ運営において、“私1人が実質的なリーダのような位置づけで、最初の旗振りと最終判断および窓口の受け皿までを引き受け続ける状態” を減らしました。対象のコミュニティは、AIの学びや実践を現場の課題解決や価値づくりにつなげることを目指す10万人規模の巨大コミュニティ「CDLE」(しーどる)です。私は2018年の立ち上げ期から関わってきたコミュニティマネージャーで、運営メンバーが入れ替わり安定しない中、古参が二人、コアな運営が数名という状態が続きました。役割が明確に決まっていないと、自然に古参へ相談が集まります。特に私は窓口になりやすく、もう一人が頼れる意見役として機能する一方で、最終的に判断と段取りが私に集まりやすい形になっていました。そこで手放したのは、足りないところを私が都度吸収して前に進める前提です。具体的には、運営の仕事を分解しないまま運営を募ること、入ってくれた人に渡せる仕事の単位がないまま時間が過ぎること、論点が曖昧なまま話を進めて最後は私が整えて決めること、こうした流れを減らしました。いきなり役割分担を宣言したのではなく、まず私が企画書の形で課題を可視化し、運営業務を洗い出して機能別チームに分ける案を提案しました。その上で体制を考える専用のプロジェクトチームを作り、1年以上かけて議論し、事務局、企画、コミュニケーション促進、外部広報、渉外、モデレーター、アナリストのように置き場を作って、責任と業務が最初から見える形に整えました。私が減らしたのは仕事量そのものというより、判断と段取りが私に集まりやすい運用と、曖昧さを少人数が抱えて吸収する役割そのものでした。※CDLE: Community of Deep Learning Evangelists。AI資格者限定コミュニティ。そうした役割や業務を抱え続けていたことで、仕事の進め方や意思決定にはどのような無理や非効率が生じていましたか?当時の運営は、個人の努力を増やすとか、運営を増やせば回るかも、という発想で進めていましたが、実際に運営を不安定にしていたのは、役割と業務の輪郭が曖昧なままタスクが暗黙知として積み上がり、都度の判断と調整で吸収する役割が結局いつもの人に集約される構造でした。この状態では、課題が出るたびに運営全員で一つずつ取り組みがちになり、実行は遅れます。意思決定ルールが不明確なまま、確認待ちや揺り戻しも増えます。運営の方向性を決める人と実務を支える人の境界もぼやけ、中心になって動く人と、動きたくても動けない人に分かれていきました。結果として各自の活躍範囲が育たず、新しく参画した人ほど役割が見えないまま離れていくことが起きていました。例えば、運営定例の打ち合わせの案内や司会進行がその都度の相談になってしまうことや、コミュニティ上で新しい活動枠の作成依頼が来ても結論と作業者探しが絡んで滞留してしまうこと、運営を手伝いたいという申し出があっても渡せる役割が見えず、受け入れた後の動きが作れない、といったことです。一番問題だと思っていたのは、運営のための運営に時間が取られ、CDLEが目指す、AIの学びや実践を現場の価値づくりにつなげるための場づくりや参加者支援が後回しになっていたことでした。運営が回らないこと自体ではなく、本来創り出したい価値が薄まっていく感覚が苦しかったです。役割を手放す・任せる判断をする際に、最後まで迷った点や失うと感じたメリットは何でしたか?役割を手放すこと自体に迷いは全くありませんでした。古参であるというだけで、特別な肩書きも権限もない自分が実質リーダの立ち位置になっていることに違和感があり、そのせいで運営が詰まり、コミュニティが回らなくなることへの申し訳なさのほうが大きかったからです。ただ、手放す決意ではなく、手放す行動に着手できていなかった。ボランティア前提の場では、担当を命じたり期限で縛ったりできません。だから、仕事をどう切り出し、どこまでを裁量として渡し、どこからを相談事項にするか、その設計がないと任せようがありません。運営に加わってくれた人が、やることが見えないまま離れていくのが寂しくて、何とかしたかった。あえて最後まで残っていたものを挙げるとすれば、その、やるせなさともどかしさでした。やめた/減らしたことで、今はどんな役割や判断に集中できていますか?抱え込みと曖昧な役割分担を減らしたことで、私はコミュニティマネージャーとして、また、設立当初のファウンダーとしての役割に集中できるようになりました。例えば、CDLEが何のためのコミュニティか、誰にどんな価値を届けたいのかを常に意識し、活動や議論がそこから外れそうなときに、設立時の経緯も踏まえて静かに軌道修正を促すこと。活動が増えて選択が必要になったときは、どれを伸ばすかより先に、今いちばん守るべきことは何かを言葉にして揃え、優先順位の判断を支えること等です。また、暗黙知が増えると、結局いつもの人に戻るので、フォルダや記録、テンプレート、引き継ぎの導線といった共通基盤を各チームと一緒に整え、新しく関わる人が最初の一歩を踏み出しやすい入口を用意することにも時間を使えるようになりました。これらの判断は全体の継続性に効くので、自分がやる意味があると考えています。もし役割や責任を抱え込みすぎていると感じる人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?私がいちばん効くと思うのは、仕事の配り方を工夫する前に、自分が何を大事にしているのかを言葉に戻すことです。抱え込みは、責任感の強さというより、目的がぼやけたまま全部に反応してしまう状態から始まると思います。私の場合は、コミュニティは何のためにあるのか、自分が目立ちたいわけではない、持続可能な運営でありたい、という軸を握り直したことで、手放す判断を現実の行動に落とせました。私が現実的だと思う1週間の動き方は、最初から完成形を狙わず、暫定の一文を作って、短い時間で何度か更新するやり方です。1日目は10分だけ取り、今自分が関わっている仕事は、そもそも何の目的でやっているのか、自分が一番強みを発揮できる役割があるとすればそれはどこなのか、という仮説を一行で置きます。2〜6日目は、その一文に照らして目的に近い行動と遠い行動を仕分けし、遠い行動について、やめる・渡すができないか判断します。最終日に30分だけ取り、手放したことで困ったことより、守れたものや前に進んだものを確認して、暫定の一文(仮説)を更新します。そうやって仮説を更新していくと、自分の軸が少しずつ太くなっていきます。この軸を拠り所にすると、任せることや断ることが、単なる拒否ではなく、逆に、目的を守りながら仕事を続けるための判断になっていくと思います。本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyleこうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。