自分らしく働き続けるために、キャリアプランを手放したら、父と同じ道へ導かれた。 - 角谷浩 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

思考の癖や前提、日々触れる情報を見直すことは、視点の偏りや意思決定の歪みを整え、無意識のバイアスやメンタルモデルを書き換えながら問いの質を変えていきます。

本記事では、考え方・情報・前提をどのように手放してきたのか、その葛藤と変化、そして今すぐ見直せる具体的なヒントまでを、名古屋産業大学教員の角谷浩氏の経験からたどります。

思考の前提を整えることで、より本質的な問いに向き合う視点が得られます。

EXPERT

自分らしく働き続けるために、どんな考え方・情報源・習慣をやめた/減らしましたか?

人生100年時代。私は50才を過ぎて一つの決断を下しました。自分を縛り続けていた「一つの会社に骨を埋める」という考えを捨てたのです。

日本企業の中に長くあった終身雇用という名の幻想。そして「次はこうあるべきだ」と自分を追い立てる、細かなキャリアプラン。それらすべてを手放し、私は「決めすぎない」という自由を選びました。

それまでの私の目には、外の世界は「会社にどう役立つか」というフィルター越しにしか映っていませんでした。その偏った見方をやめ、自分の心が揺れる方角へ、ただ身を任せることにしたのです。名刺を置いて、自分の興味が向くままに、社外のシンポジウムや新しいコミュニティへ足を運ぶ。そんな、かつての自分なら「無駄だ」と切り捨てていた時間を、何より大切にするようにしました。

それを続けていたことで、視点の偏りや意思決定の歪みはどのように生まれていましたか?

新卒から続いた「会社の中での正解」から逆算するような生き方は、私の考え方を少しずつ変えていました。何かを選択する基準は、いつも「社内での立ち回り」や「波風の立たない安心」。いつの間にか狭いカゴの中で生きていたのです。

閉ざされた視界では、外の世界で起きている大きな変化も、自分の中に眠るまだ見ぬ可能性も、ただのノイズにしか見えませんでした。計画が狂うことを恐れるがあまり、自分の譲れない価値観を組織の安定という小さな枠の中に押し込め、本来なら楽しむべき挑戦を「危ないもの」として遠ざけていたのです。

それは、人生のハンドルを自分ではなく会社という組織に預けてしまうという、今思えば危うい状態だったのです。

やめる・減らす判断をする際に、最後まで手放しづらかった考え方や立場、失うと感じたメリットは何でしたか?

最後まで私を引き止めたのは、「組織という大きな殻に守られている」という安心感でした。

新卒から30年間で築き上げてきた立場や人間関係というものは居心地が良く、手放しがたいものです。それを捨てることは、積み上げてきた時間をゼロにするような不安を伴います。
特に「計画的に生きてきた」というプライドを捨てることは、自分の過去を否定するようにすら感じます。

しかし、キャリアデザインの書籍で「人生はそもそも思い通りには進まない」という言葉に出会ったとき、私は気づきました。未来をすべてコントロールしようとするのは単に思い上がりでしかないのだと。
そのこだわりを捨てた瞬間、長年肩にかかっていた重荷が、ふっと軽くなったことを覚えています。

手放したことで、問いの立て方や物事の見え方、行動や成果はどのように変わりましたか?

設計図を捨て、「今、この瞬間に心が動くこと」に全力で向き合いました。すると、人生は思わぬ方向へと動き出したのです。

ある日、登壇したシンポジウムで、一人の大学教授と出会いました。
「私の大学で、今日と同じ話を学生に語ってくれませんか。」

その偶然の誘いが、私を大学講師という新しい舞台へと連れていってくれました。
実際に教壇に立ち、若い学生たちと対話を重ねる日々。そこには、これまでの長い社会人生活で一度も経験したことのない喜びがありました。

自分の経験が誰かの光になる手応え。
それは、亡き父も同じように感じていた喜びだったのかもしれません。

若き日の私は、教員であった父と違う道を歩むと意地を張り、会社員の世界を選んだはずでした。それなのに執着を手放した途端、まるで運命に流されるように、私は父と同じ景色の中に立っていたのです。計画を捨てたことで生まれた「余白」に、人生の不思議な縁が舞い込み、私は最も情熱を注げる場所に辿り着きました。

もし今、視野や問いが狭まっていると感じる人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?

もしあなたが、組織の壁にぶつかり、「計画通りにいかない」と焦っているのなら。まずは一週間、「名刺を置いて、ただの自分として過ごす時間」を無理にでも作ってみてください。

私たちはいつの間にか、「組織の中の役割」という仮面を通した見方しかできなくなっているかもしれません。その仮面を外し、仕事には関係ないけれど、なぜか心がひかれる場所へ一人で歩いていってほしいのです。

それが小さな勉強会でも、全く知らない分野のイベントでも構いません。
そこで自分に問うべきは「これは将来の得になるか?」という計算ではありません。「今、この瞬間の自分はワクワクしているか?」というシンプルな問いです。

一週間、あえて「無駄」や「偶然」を受け入れる心のゆとりを作ってみる。その隙間から差し込む光こそが、あなたを待っている「予期せぬ幸せ」の正体なのだと思います。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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