「やり続けるために、やらないことを決めた」ー思考のアウトソーシングと引き算メソッドー - 伊村睦男 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

思考の癖や前提、日々触れる情報を見直すことは、視点の偏りや意思決定の歪みを整え、無意識のバイアスやメンタルモデルを書き換えながら問いの質を変えていきます。

本記事では、考え方・情報・前提をどのように手放してきたのか、その葛藤と変化、そして今すぐ見直せる具体的なヒントまでを、近江大坂屋/合同会社京都夜市プロジェクトの伊村睦男氏の経験からたどります。

思考の前提を整えることで、より本質的な問いに向き合う視点が得られます。

EXPERT

やり続けるために、どんな考え方・情報源・習慣をやめた/減らしましたか?

1784年から続く屋号があります。近江の商人宿「大坂屋」。現在、その九代目として屋号を継ぎながら経営・企画コンサルタントをしています。

旅籠は明治に廃業しましたが、伝統を守る必要性、そして時代にも対応しないといけない。そんな中、これまで、ぼんやりと考えてきたのは「何を足すか」ではなく、「何をやめるか」だったのかもしれません。

もちろん、「あれもやりたい、これもやろう」と全部やろうとした時期もあります。

クライアントの事業計画を書き、補助金を取り、台湾からバニラを輸入し、友人の依頼でテレビの台本を構成し、昨年、京都では仲間達と「京都夜市」というナイトマーケットを立ち上げました。依頼があれば、基本的には全部受け、「やる事」、そして「やれること」もどんどん増えて行きましたが、どこかで手応えが薄くなってきたのも事実。全てが合格点だけど、全てが中途半端。

「貧乏暇なし」と言いますが、そう、忙しい人ほど、あれもこれもと足し算をしたくなる。
売上も、SNSも、ブランディングも、組織作りも。

それを続けていたことで、視点の偏りや意思決定の歪みはどのように生まれていましたか?

そんな中、ふと、自分の中でずっと続いているものを振り返ると、ある共通点がありました。
そこには「自分でやらないこと」を決めた痕迹があると。

オーバーツーリズムを解消し、観光客と市民が交流する「文化的なインフラ」作りでもある「京都夜市」も場合もそうでした。最初は、屋台も演出もスポンサーも、SNSも、すべてを最大化しようとしていました。しかし、それでは軸がぶれ、全てが中途半端になる。

そこで決めたのは、「構造は堅固に、運用は柔軟に」

  • 完璧は目指さない。

  • 無理な拡大はしない。

  • 全部を抱え込まない。

やることを増やすのではなく、やらない範囲を決める。
そうして、余白、ゆとりができたとき、全ては少しずつ自律的に回り始め、支援者も増え、SNSもバズり、京都府や京都市からも正式に応援してもらえるようになりました。

やめる・減らす判断をする際に、最後まで手放しづらかった考え方や立場、失うと感じたメリットは何でしたか?

コンサルの現場でも似た場面があります。クライアントは往々にして自分の頭に浮かぶことを「全部やりたい」と言います。しかし、成果は足し算からは生まれず、優先順位をつけ「やらないこと」「後回しにすること」を決めた瞬間に初めて集中が生まれ、そこから物事が動き始めます。一種の「選択と集中」戦略と言えるかも知れません。

とはいえ、「何を捨てるか」という選択を一人で決めるのは難しいのは確かです。可能性を閉じる恐れは拭えません。

そこで私が使っているのが「思考のアウトソーシング」です。

頭の中で考えている限り、思考は感情や不安と混ざり合い、優先順位は曖昧になり、判断は遅れます。だから自分の頭の中から外に出し、書く、人と話す、AIと対話のラリーを続ける。

つまり自分の思考は、自分の外に出した瞬間から、自分で編集可能になります。

テレビの台本も同じで、頭の中では名作でも、文字に落とし、映像にすると冗長さが見えてしまいます。不要なものは削り、削り、削る。そして残った骨格をもとに、再度、筋肉をつけていく。

手放したことで、問いの立て方や物事の見え方、行動や成果はどのように変わりましたか?

とは言え、思考のアウトソーシングとは、考えることをやめることではありません。
自分の思考を、自分が「編集者」になり、「意思決定者」に徹するためのメソッドです。
AIはその道具の一つに過ぎませんが、使い方次第で、自分の思考の輪郭が見えてくることが多々あります。

「継続は力なり」とよく言いますし、それは真であると思います。ただ、やり続けられる人は、特別に意思が強いというわけではなく、やり続ける理由があり、やることとやらないことの明確な基準を持っているだけではないでしょうか。

やりたいこと、やるべきことが増える中、その中で「やらないこと」を決めていく。続ける力は、「どう足していくか」ではなく「どう引いていく」かなのだと考えています。
さて、次は何をやめるとしましょうか。

もし今、視野や問いが狭まっていると感じる人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?

思考のアウトソーシング、足し算より引き算が大事と言いましたが、そうは言っても、まず考える、そして足していく。考えないと、アウトソーシングではなく丸投げになる。引き算しようにも、足し算の結果がないと引き用がない。
まずは自分で考え、それを足していく。それをアウトソーシングし、引き算で編集していく。
それが肝要ではないでしょうか。

私がやってるのは「情報の意図的遮断」と「フローな状態で考える時間作り」です。電車の中ではスマホは見ない、外の景色を眺めたり、人間観察しながらボーッと考え事をしています。

これだけ多様な情報が大量に流れる世界では、自分に必要な情報、不要な情報、無駄な情報が、意識しないとどんどん頭の中に流れてきて、情報を得ただけで自分で考えたつもりになってしまいます。情報はあくまで情報であり、知識でもなければ、知恵でもない。

インプットなくして、アウトプットなし。ではありますが、良質なインプット、それを自分の知識とし、知恵として吐き出す事で初めて良質なアウトプットになる。そのためにはジャンクなインプットは(美味しいけれど)健全な思考・良質なアウトプットには不要であり、頭のキャパシティがすぐにオーバーしてしまうのではないでしょうか。スマホを見る時間を削るのが、一番効果的だと思います。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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