xRは古くて新しいバーチャルリアリティ技術の総称 ―― 本題に入る前の予備知識として、「xRとは何か」を簡単にご説明いただきたいのですが。児島 xRとは「VR」、「MR」、「AR」など、バーチャルリアリティ技術の総称です。2、3年前から用いられるようになりました。ちなみに私どもはVRやMRのデバイスを提供させていただいております。 xRがビジネス必需品になるキーワードは「軽薄短小」 ―― メディアでは大手小売りチェーンの店員に対する店舗オペレーション訓練、若手医師に対する手術の模擬訓練、建設作業員に対する工事現場の安全訓練、製造現場での技能訓練など様々なビジネス活用が報道されています。xRのビジネス活用は実際のところ、どのレベルまで進んできているのでしょうか。児島 私ども開発側から申し上げますと、率直なところxR本来の能力を考えると、やっとビジネス活用のとば口に立ったというところです。私どもが手掛けているVR・MRでも、これらの技術を使ってどんなビジネス活用ができるのだろうか、どんなビジネスで活用すればVR・MR技術の真価を発揮できるのだろうか、などの模索がやっと始まったところです。現在のビジネス活用レベルは、xRの能力のまだほんの一部といっても過言ではありません。VR・MRが例えばパソコンや三次元CADのように、ビジネス市場で不可欠なツールとして使われるようになるまで、5年以上はかかると思っています。 ―― ではVR・MRをパソコンや三次元CADのようにこなれた技術に進化させるためには、どのような課題解決、あるいは技術的ブレークスルーが必要とお考えですか。児島 VR・MRマシンの大量データをリアルタイム処理できるエッジコンピューティングなどのクラウドコンピューティングと高速通信網が不可欠です。しかしエッジコンピューティングが全国津々浦々まで整備されるのには相当の時間がかかると思われます。これらの全国整備完了で、VR・MRがビジネス市場で本格的に活用できる環境が一通り整うのではないかと思います。このタイミングに合わせてVR・MRがやっと、パソコン・三次元CAD並みにビジネス現場で活用できる、手軽でユーザビリティの良いアプリケーションの提供が始まると思われます。 児島 アプリケーション開発が始まるまでに、VR・MRのハードウェアは「ユーザーがそれを着用しても苦にならない、違和感がない」レベルの小型・軽量化が不可欠なのです。現在のアーケード市場のVR・MR用眼鏡は、お客様はインストラクターのサポートで着脱、インストラクターのサポートでVR・MRマシンを操作されています。しかしビジネス市場では、例えばヘルメットのように、「ユーザーが自分でさっとVR・MR用眼鏡を着脱できて、何の違和感もなくマシン操作ができる」レベルにならないと、VRに精通されていない法人のお客様には非常に難しいツールと感じてしまうでしょう。ビジネス市場で成長するための最後の関門は「低価格化」 ―― 技術的な問題の他に解決すべき課題は何でしょう。児島 ビジネス活用においては、やはりコスト問題でしょうね。例えば、現在の顔の半分を覆っている大きくて重いVR・MR 用眼鏡を、通常の眼鏡並みに小型・軽量化し、かつ購入価格も通常の眼鏡並みに下げなければビジネス市場には浸透しないでしょう。ビジネス活用においては、厳しいコストパフォーマンスが追求されますから。ところが、現在はまだそのための製造技術は未開発です。市場価格は生産量に比例するので量産化も必要ですが、その技術も未開発です。また、ビジネス活用となるとVR・MR マシンサーバーも、現在のエンターテイメント施設のような設置スペースは取れないので、この小型・省スペース化とCPUの高性能化も必要です。 ―― コスト問題の解決には何が必要なのでしょうか。児島 低価格化とは要するに量産効果の結果です。したがってVR・MRもビジネス市場で量産効果を出すためには「製品ライフサイクルの法則」に従わざるを得ないと思います。つまり図式的に言えは、VR・MR 用眼鏡・マシンの小型・軽量化、ユーザビリティの優れたアプリケーションなどの技術的課題を私ども供給側が解決して、やっとビジネス市場におけるVR・MR導入期の幕が上がります。この時期のVR・MR用眼鏡・マシンは特注品に近いので高価です。1960年代のIBMの汎用コンピューター「System/360」のような製品です。ですからこの時期は競争優位に立つため必要だ、導入のコストパフォーマンスより導入効果の方が先決だと言ってくださるイノベーター的なクライアント企業の戦略的導入で市場が立ち上がるでしょう。そんなクライアント企業が徐々に増え、導入成功事例もある程度蓄積されたところで、「それなら当社はVR・MRをこの業務で活用できるのではないか」という形でビジネス活用ニーズが顕在化してくるでしょう。そのタイミングで私ども供給側が一気に量産化の舵を切ればコスト問題も解決でき、VR・MRは成長期に入っていけるでしょう。 ―― 導入期が始まり、そこから成長期を移行できるのはいつ頃だと見ておられますか。児島 現時点では予測データがあまりにも少なすぎますし、エッジコンピューティング整備のように私ども供給側だけで解決できない課題もありますが、着実に近づいていると言えます。ビジネス市場攻略の突破口は研究・開発、設計、教育、訓練の4カ所 ―― VR・MRのビジネス市場開拓に向け、御社はどんな領域のビジネス活用を目指しておられるでしょうか。児島 お客様の投資のコストパフォーマンスを考えると、研究・開発、設計、教育、訓練の4領域がビジネス市場開拓の突破口になると考えています。もちろん、すでに様々な応用が始まっているのも事実です。研究・開発領域の場合は、新商品開発に向けたマーケットリサーチや実証試験の効率化・高精度化のためにご活用いただけると思っています。設計領域の場合は、メカニカルデザインや工業デザインの分野でご活用いただくと、設計分野のイノベーションを起こせると思っています。例えば自動車の新型車を開発する場合、設計にVR・MRを活用すれば設計期間の大幅短縮と設計コストの大幅圧縮が可能になります。したがって、タイミングを見計らった新型車開発や現行車フルモデルチェンジの投入も可能になるでしょう。 ―― 教育の場合は学校教育や社員研修の学習サポートでしょうか。児島 いえ、私どもが想定しているは、すでにメディア報じられている活用レベルではなく、Ed Techとの連携活用です。VR・MRはEd Techが目指している教育イノベーションのプラットフォームになると思います。4番目の訓練領域の場合は、ハザードマップをベースにした避難訓練での活用などにも利用されると思います。日本は地震・津波、集中豪雨による河川氾濫、土砂崩れなど自然災害が多い国なので、VR・MRを活用すれば地域特性に応じた的確で効率的な非難訓練ができるようになるでしょう。そうすれば自然災害被害を減少させられますし、そうなると被災による経済的損失も減少させられるでしょう。 ―― ビジネス活用にリアル感がありますね。児島 この4領域の活用事例が増えれば、先ほどお話ししたように「当社も」という形で、ビジネス市場の他の領域にもVR・MRがじわじわと広がってゆくと、私は確信しています。 (記事作成ː福井 晋) <参照資料>AR vs MR!/Geekly https://geekly.co.jp/column/cat-technology/1904_012/xRの「ビジネス活用」最前線/ビヨンド https://boxil.jp/beyond/a6185/VRの歴史が一目で分かるインフォグラフィック/Mogura VR News https://www.moguravr.com/vr-history-infographic/VR/ARのビジネス活用事例10選/ Mogura VR News https://www.moguravr.com/vr-ar-business/IoT時代に注目される「エッジコンピューティング」/NTT DATA https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2018/1122/児島全克HTC NIPPON株式会社 代表取締役社長