Expert Story

「半歩先の未来」を示し続け、日本社会が「将来像を描く力」を高めたい

江端浩人事務所代表/エバーパークLLC代表/iU情報経営イノベーション専門職大学教授

江端浩人

#DX

米ニューヨーク・マンハッタン五番街生まれ。上智大学経済学部、米スタンフォード大学経営大学院、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラ社iマーケティングバイスプレジデント。日本マイクロソフト社業務執行役員セントラルマーケティング本部長。アイ・エム・ジェイ執行役員CMO、株式会社ディー・エヌ・エー執行役員メディア事業本部長、株式会社MERY取締役副社長などを歴任。

Published 2021.7.30

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Prologue

コロナ禍において一気に数年分進んだと言われる社会のデジタル化やオンライン化。リモートワークが当たり前になったこともあり、「複業(副業)」への注目度もより高まっている。

江端浩人氏は、DXや複業の文脈でさまざまな活動を手掛ける。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、スタンフォード大学への留学、ITベンチャー創業を経て、日本コカ・コーラや日本マイクロソフトといった企業でマーケティング部門のトップを担ってきた。現在は独立し、企業のDX支援やCDOシェアリングといった取り組みに加え、大学で教鞭を執りデジタル人材の育成やパラレルキャリアの推進も行う。

多方面で活躍する江端氏が考える、これからの社会の変化とは。日本の企業や個人には何が必要となるのか。教授を務める情報経営イノベーション専門職大学(東京都墨田区・2020年開学)で、自身の過去から現在、そして日本社会の未来を語ってもらった。

「日本に貢献したい」。思いの原点は「酪農王国・北海道」を築いた祖父

私の活動のキーワードは「半歩先の未来を示す」こと。新しいことに先陣を切って飛び込み、みなさんが参考にできるように知見を広める役割を担っていると思っています。

根底には、「日本が今困っていることに対してお手伝いをしたい」という気持ちがあります。それは、私の祖父の姿勢から受け継いだものなのかもしれません。

祖父は、北海道からアメリカに渡って酪農を学んで帰国し、アイスクリームやバター、チーズなどをつくり、その後雪印乳業の初代社長を務めた人でした。

小さいころは夏休みになると北海道に行って、いろいろな話を聞かせてもらっていました。

たとえば、函館で大きな火事があったとき、祖父たちは北海道じゅうから牛乳を集め、支援物資として持って行ったこと。「日本人の体を丈夫にしたい」という思いから、牛乳を飲む習慣がなかった日本人に牛乳を浸透させたこと。

そんな話を聞きながら、自然と「私も何か日本に貢献できることをしたい」と思うようになったのです。

アメリカで触れた「未来」の姿がキャリアの道筋をつくった

父親が商社勤務で転勤が多く、幼少期はアメリカと日本を行ったり来たりするような生活をしていました。小学6年生で渡米した際、新しい土地で友だちも多くなく、私は1人、学校にあったコンピューターセンターに通っていました。それがITとの出会いでした。

1970年代、まだパソコンは登場していない時代です。そこにあったのは黒電話でその都度回線をつないで動かすようなコンピューターでした。それを使って、簡単なゲームやチャートのプログラムをつくって遊んでいました。

新卒で入社した商社ではスタンフォード大学に留学させてもらいました。

「生活経験のない西海岸の大学がいいな」程度の気持ちからシリコンバレーにある大学を選んだのですが、そのときに見たものが、私のキャリアの方向性を決定づけました。

それが、「SUN(Stanford University Network)」というシステムです。今のインターネットの先駆けで、図書館の蔵書検索やメールの送受信ができる仕組みでした。当時、商社には世界中といち早く情報をやりとりできることが売りの「テレックス」という通信手段がありました。しかし、SUNはそれとは比較にならないほど、まったく新しいものでした。

「こんなに画期的なものがあるのか」と衝撃を受けました。それと同時に、私は「世の中が変わる」と直感しました。

日本に戻り、社内でIT関連の新規事業を立ち上げようと提案したもののその制度がなく、結局会社をスピンアウトして自分でITベンチャーを創業することになりました。デジカメ写真の加工サービスを行う企業でしたが、世の中からはなかなかわかってもらえず、人を雇うことにも苦労しました。今ではほとんどの人がイメージできる事業内容だと思いますが、当時では先駆的すぎたようでした。

人口減少社会に提言したい「半歩先」の選択肢

時代は変わり、今はデジタル人材が求められています。

デジタル化を進めるためには、外から行う企業のDX支援のみならず、企業内にもCDO(Chief Digital Officer=最高デジタル責任者)のような役割が必要だと考えています。そして、現状ではそれができる人は限られています。

さらに、今後日本の労働人口が少なくなることは明らかです。したがって、人材をシェアしていく必要があると思い、「CDOシェアリング」という概念を提唱しています。CDOに限らず、1人の人が複数のことをしないと回らないような世の中になるでしょう。

そこに、複業・パラレルキャリアを推進する意義があります。

私自身は、立ち上げ期だった事業構想大学院大学から教授の打診を受けたことがきっかけで複業に関わり始めました。当時は日本コカ・コーラでフルタイム勤務をしていたので、土日と夜の細切れの時間を使って仕事をする、ということを始めたのです。

この流れは、少しずつ日本に浸透してきていると感じています。具体的な指標となるのは、所得税の個人申告の数値です。国税庁の統計によれば、昨年度から個人事業主登録をする人や確定申告をする人が増え、「雑所得」といった複業に関する数字が伸び始めています。

複業・パラレルキャリアについては「自分でやりたいことを選べる」ということが重要なポイントだと考えています。自己決定が幸福度と相関するという調査結果もあるくらい、自分で決めることは大切です。複業に関わる人たちの自己肯定感を測ることができれば、さらにパラレルキャリアの意義ははっきりしてくるのではないかと考えています。

現在、情報経営イノベーション専門職大学では、複業人材と学生で行うプロジェクトにチャレンジしています。こういったメンバー構成で世の中に価値を出していくことができれば、未来的な活動の選択肢として、社会に提言できるのではないかと思います。

日本の個人と企業が持つべき“Prediction”=「予測」の力

このような「半歩先の未来」を示そうとしているのは、日本社会が「予測」の力を身につける手助けをしたいという思いがあるからです。

拙著『マーケティング視点のDX』(2020年10月、日経BP社)の中で、DX2.0に必要な要素を「Problem(課題)」「Prediction(予測)」「Process(過程)」「People(人材)」の「4P」と定義しました。

このうち、2つ目の「Prediction(予測)」が日本企業の最も苦手なところだと思っています。「Prediction」とは、将来どうなりたいのか、社会の変化を予測しながらビジョンを描くこと。

たとえば、イーロン・マスクがスペースXでやろうとしていることは、単に「ロケットを飛ばしたい」という願望の実現ではありません。将来地球に人が住めなくなることを想定した、火星への移住や、火星の資源を活用するための手段の確保が目的です。彼らは、「未来のあるべき姿」から解決策を考え、実行しようとしています。これはものすごく壮大なバックキャスティングなのです。

ビジョンの規模の大小はあれ、日本企業も将来を見据え、「どこを目指すのか」をきちんと描いたうえで事業展開しなければならないと思います。

実際にコロナ禍では、従来の業態に対して「将来的にオンライン化されるだろう」とマーケティング視点でDXの先行投資をし、すぐに状況に対応できた会社が伸びました。飲食のモバイルオーダーやオンラインのスクールが良い例です。

「DX推進」として、何らかのツールを入れて合理化を進める企業は多いです。しかしビジネスが根底から変わっていくときに、既存事業を少し効率化したからといって、ほとんどインパクトはありません。変わっていく世の中では、今の事業の延長ではなく、組織の強みを生かした戦略が求められます。持っているケイパビリティを生かして時代に応じた転換をしていくことができないか、企業は常に考える必要があります。

受け継いだ開拓精神を胸に、将来像の描き方を伝えたい

私が携わる、DX支援とパラレルキャリア推進という2軸には、共通点があると思っています。DX支援が企業に対する「Prediction」、複業・パラレルキャリアは個人に対する「Prediction」にかかわる取り組みだということです。

最近、「将来の計画はどのように考えたらいいのでしょうか」と尋ねられることがよくあります。つまり「将来像の描き方」について不安を感じている人が多いということです。

私は昔から、社会がこれからどう動きどう変わっていくかを観察し、そのときどきのビジネスの最前線に身を投じるようにしてきました。

日本に酪農を広げた祖父より前の時代に、私の先祖は北海道に渡りました。留学先のシリコンバレーで血が騒いだことや、当時の先端領域で起業したこと、そして現在の活動は、彼らの開拓精神と通じるのかもしれないと思います。

先行きが不透明な日本の世の中に向けて、半歩先の世界を伝え続けていきたい。そして、すべての人と企業が「Prediction」の力を高められるよう、これからも活動を続けていきたいです。

編集:南部菜生子 取材:落合真彩 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人

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