理想の未来を創るための対話の可能性 - 新井宏征 / #エキスパートアドベントカレンダー2024

2024-12-05

「#エキスパートアドベントカレンダー2024」とは、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。

今回は、株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役の新井宏征氏による記事をお届けします。

EXPERT

新井宏征

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
不確実な未来の可能性を検討し、未来に柔軟に対応できる組織への変革を支援するための専門家として、シナリオプランニングなどの未来洞察手法や組織開発理論などを活用したコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにて学んだあと、その内容を理論的な基礎としながら、日本の慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
東京外国語大学、同大学院修了後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て現職。主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』などがある。

2024年もあとわずかですが、振り返ってみると、NewsPicks Expert、そして自社での取り組みをとおして、さまざまな方と関わることができた1年でした。

2024年の振り返り:「エキスパート」としての活動

NewsPicks Expertの取り組みとしては、リサーチや講演などでの関わりがありました。リサーチでは、お客さまの社内の状況を調べたり、外部の動向を調べたり、時にはお客さまと一緒に第三者へのヒアリングを行うこともありました。

自社ではシナリオプランニングや未来創造ダイアローグ(シナリオプランニングを元にした弊社開発の対話手法)を使い、未来を起点にした戦略や中期経営計画の立案、事業検討、そして次世代リーダー育成などに取り組みました。

どちらの場でも「エキスパート」、つまり私の専門性を価値と感じてさまざまな機会をいただいていることになります。

生成AI時代におけるエキスパートの役割

ChatGPTなどの生成AIツールがどんどん進化していく中、私のような立場が提供する価値はどうなっていくのだろうかと考えてみると、それは「見たくないものを一緒に見て、考える」ことが大事な役割になっていくのではないかと思うのです。

たとえばリサーチした結果をお客さまに紹介したり、お客さまと一緒にヒアリングをしていると、「自分たちにとって都合の良い」情報や結果だけに飛びつこうとしている方が多いことに気がつきます。

またシナリオプランニングなどで未来を考えようとすると、「自分たちにとって都合の良い未来を考える」ことにどんどん傾いていく方も少なくありません。

こういう場面で、「自分たち」だけの世界に閉じこもらず、しっかりと「見たくない可能性」にも目を向けられるようにすることが、私たちのような立場のエキスパートが果たすべき大事な役割です。

組織の「意味の更新」につなげる「対話」の役割

ただし、どのような組織も、いつまでも外部のエキスパートだけに頼るわけにはいきません。

そこで私が大切だと思っているのが「対話」です。

ロシアの思想家ミハイル・バフチンの対話論について扱った『生きることとしてのダイアローグ』(桑野隆 著/岩波書店)という本があります。

この中で著者はバフチンによる次の文章を紹介しています。

言葉とは、わたしと他者とのあいだに渡された架け橋である。その架け橋の片方の端をわたしがささえているとすれば、他方の端は、話し相手がささえている。言葉とは、話し手と話し相手の共通の領土なのである。

この文章を紹介した上で、著者は次のように述べています。

「ささえあい」があるからこそ、両者のあいだ – 架け橋のうえ – で意味の更新が生じる、あるいはすくなくともその萌芽があらわれるということになります。

「対話」というと、単に「誰かと話をする」というイメージだけがあるかもしれません。

ただ、話をするという行為だけにとどまるのではなく、引用した部分で書かれているとおり、その先の可能性として、たとえば組織やチームのメンバー同士の対話をとおして「意味の更新」が生じたり、それが生まれる可能性につながれば、とても意味のある取り組みになるでしょう。

「未来創造ダイアローグ」手法を使った対話のメリット

そんな対話の場をつくるべく、シナリオプランニングを元にした「未来創造ダイアローグ」という不確実な未来の可能性を土台とした対話手法をさまざまな機会で活用しています。

2024年に実施したワークショップを振り返ってみると、組織開発やチームビルディングなどの組織・チーム単位だけではなく、個人のキャリアを考える場面での活用もありました。

そのようにいろいろな場面を見ていると、シナリオプランニングを使って、ひとつではなく、あえて複数の起こり得る未来の可能性を見て、そして、それを元に対話をすることのメリットが見えてきます。

ひとつには、複数の起こり得る可能性が提示されることで「自分たちにとって都合の良い未来」以外にも強制的に目を向けることができるというメリットがあります。こうすることで、都合が良いものも、都合が悪いものも、起こり得るものだということを徐々に受け容れていくことができるようになります。

さらに、現在ではなく未来を考えるという設定が、自社のことを考える発想の幅を広げやすくすることにもつながっています。この点は特に大切な点なので、もう少し掘り下げてみましょう。

未来についての対話がもたらす新しい可能性

冒頭で「自分たちにとって都合の良い」ことばかりを考えるのではなく、「見たくない可能性」にも目を向ける方が良いとお伝えしました。

将来起こり得る不確実な可能性を複数考えるシナリオプランニング、あるいはそれを元にした対話手法である「未来創造ダイアローグ」では、自分たちが「見たくない可能性」も強制的に見ることになります。

しかし、それは今、現実に起きていることではなく、将来における不確実な可能性です。

そのため、見たくない未来の可能性だからといって見るのを避けたり、見て悲観する代わりに、「そういう世の中になったとしても、自社にとっての理想を実現するためには、今から何をすれば良いのか?」と問い、考えることができます。

言い換えれば、まだ何かが実現しているわけではない、少し先の未来を考えるという「余白」がある設定での対話を行うことで、「自分たちにとって都合の悪い」未来を直視し、それをより善くしていくための可能性に目を向けることができるのです。

日頃から未来志向で考えるためのヒント

もちろん、時間や人材の都合で、すべての組織で、すぐにシナリオプランニングや未来創造ダイアローグをできるとは限りません。

そういう場合でも、今の現実だけを元にして現実逃避してしまうのではなく、一度、視野を未来へと広げて考えてみてはどうでしょうか。

そして「たとえ自分たちにとって都合の悪い未来であっても、その世界で自社にとっての理想を実現するためには、今から何をすれば良いのか?」という問いを自らに投げかけてみると、そこから新しい視点を持つことができるはずです。


NewsPicks Expertの登録エキスパートによる「#エキスパートアドベントカレンダー2024」。

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