
「#エキスパートアドベントカレンダー2024」とは、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。
今回は、株式会社KCC PARTNERS 代表取締役の城戸崎祐馬氏による記事をお届けします。
城戸崎祐馬
株式会社KCC PARTNERS 代表取締役
エーザイ株式会社・アラガンジャパン株式会社(現AbbVie)において大学病院の支援、医療機関へのBusiness Consultingを提供。特に自由診療において多数のプロジェクトを手掛け、マーケティング・広報・組織改革等を実施。NTTデータ経営研究所に移籍後は大手通信会社・製薬企業・官公庁などを主体とした産業戦略案件に従事する。
2020年にヘルスケア、ウェルネス領域に特化したシンクタンクである株式会社KCC PARTNERSを設立。市場調査から売上向上の実質的な戦略デザインを行う。
エキスパートアドベントカレンダー2024をご覧いただきありがとうございます。
私からは自身の専門である、医療市場環境を振り返り、特に気になった話題について見解を述べさせていただきます。
2024年では、日本国内において、6月に医療・介護・障害福祉のトリプル改訂、10月に先発品の実質値上げが行われ、対応に追われた医療機関も多くあったかと思います。
その他にも医薬品の流通問題など顕在化され、市場サイクルそのものに混乱が生じることもしばしばありました。
海外では英国の医療崩壊、韓国の研修医ストライキなどが目立ち、日本にも通じる問題点が確認されました。
このため、今年は医療におけるソフト面での問題ではなく、医師というハード面での変化に焦点をあてたいと思います。
この数年、日本では若手医師が美容医療に流れ続けることが懸念されていました。6年間かけて医学部を卒業し病院で2年間の臨床研修を終えた後、保険診療をほとんど経験せずそのまま美容クリニックに就職する「直美(ちょくび)」という造語も浸透しました。
厚生労働省から発表された2023年までの集計では、美容クリニックは3年間で43.6%増と極端な右肩上がりとなり、20代〜30代の若手医師が過去にない勢いで美容に流れているのが明らかになりました。当然、医師だけではなく、看護師も相当数が美容クリニックに流れています。
このこと自体は市場原理主義から致し方ないと考えられますが、技術・知識ともに未熟なまま医師が美容に携わることで、美容医療におけるクレームが増加していることも問題視されています。
こうなると本家本丸である厚生労働省も黙っているわけがありません。美容医療をはじめとする保険外診療へ医師流出が止まらない現状を是正するための対策が発表されました。それは「内科や外科など公的保険の対象となる一般的な診療に最低5年ほど取り組まなければ、自前のクリニックを開いても保険診療を提供できない」という牽制案です。これは2025年に改正案として通常国会に提出される予定です。
この改正案については「直美するような医師が保険診療をやる?全く歯止めにならないのではないか?」と思われる方が大半でしょうが、美容医療の適正化に向けてまずは貴重な一歩を踏み出したと前向きに捉えたいと思います。
日本の国民皆保険は世界に誇るべき素晴らしい制度ですが、自国の人口トレンドでは近い将来その制度は崩壊するのは明らかです。自由診療が経営面でも保険診療では補填しきれない部分を補うことは合理的であり、納得性も高い。しかしながら、美容医療のモラルの低さが問題としてあげられます。
先述した通り未熟なまま施術を提供する医師がいることや、医療広告ガイドラインを把握せず稚拙なマーケティング手法が横行していることには、医療戦略に関わる身として大きな危機感を感じています。
某県知事選挙でも話題になりましたが、SNSにおいて印象は正しい方向にも悪い方向にも操作ができてしまいます。美容医療のSNSでは、ありもしない専門医を名乗る医師・看護師が散見されるし、稚拙なセミナーも増えています。偉大なる先人医師たちが築き上げていた「医療の品格」を一部の美容医療が崩していることは否定できないでしょう。
自由診療という税補助に頼らないビジネスの世界で戦うには、グランドルールの理解といった、基本的なお作法を身に付けない限り、美容医療に携わる人間の社会的地位が真に向上することはありません。健全な市場成長のため、いち早く適正化されることを切に願います。
医師というハード面に話を戻します。
直美(ちょくび)の医師が悪であるような世論がうまれつつありますが、そもそもの問題として、医師の過酷な働き方、それに見合わない賃金問題が背景あることを私たちも忘れてはいけません。2024年4月から医師の働き方改革が実施されましたが、それはあくまで所詮表面的な部分のみ、未だに過酷な働き方をしている保険診療の医師は多くいらっしゃいます。
自身の経験を通じて思いますが、学生時代にトップクラスの頭脳をもった人たちが就く職業がこのような待遇・労働環境でよいのか?と常日頃思います。これこそ日本の優秀な頭脳の損失ではないかとすら考えます。これなら、シンクタンクやコンサルティングファームでその頭脳を活用してくれた方がよほど有益ではないかとすら思うわけです。
診療報酬の設定に問題があり、どうやっても赤字になるしかない保険診療の医療経営には全員で声をあげなければなりません。社会的責任感により採算を度外視して、患者を受け入れている医療機関の善意に委ねている現状は「やりがい搾取」と何が違うのでしょうか。
お金は不浄なもの、医療でお金を稼ぐことなんてあり得ないという考えは、人口ボーナスという社会背景があったから成り立っていたことであり、抜本的に見直さないと取り返しのつかない危機が目の前にきています。
つらつらと問題点を振り返りましたが、最後は希望ある見解で締めくくりたいと思います。
近い将来、健康市場を含めた医療産業は、現在のICT産業や自動車産業を上回り、極めて大きな規模に成長すると予測されています。AIやロボティクスなどによる新しいヘルステックが次々と誕生し、かつてない勢いで従来の医療の常識は塗り替えられていくでしょう。
「健康一番」、どの時代にも共通する普遍的価値がさらに充足されるであろう、これからの未来に期待を込めて本年を締めくくりたいと思います。
みなさま、良い年の瀬をお過ごしください。
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