中国EV自動車メーカーBYD大躍進の秘密は脱自前主義、脱自国主義にあった! - 鈴木誠一郎 / #エキスパートアドベントカレンダー2024

2024-12-14

「#エキスパートアドベントカレンダー2024」とは、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。

今回は、自動車業界専門コンサルタントの鈴木誠一郎氏による記事をお届けします。

EXPERT

鈴木誠一郎

自動車業界専門コンサルタント、自動車マーケットスペシャリスト、鈴木コンサルタンツ代表、オンリーワンコンサルタント養成アカデミー主宰。
日産自動車株式会社勤務後、ビー・エム・ダブリュー株式会社に携わる。経営コンサルタントとして主に自動車業界を中心に活動する。同時にビジネスパーソン向けにコンサルタント養成講座を主宰し多くの人材を輩出している。
主な著作は「うなずき力」(Nana出版)、「講師デビュー入門」(同文館出版)、「普通のサラリーマンでもできる!週末コンサルの教科書」(PHP研究所)、他多数。

 「EVシフト、官民一体の総力戦で」。これは私が2年前に日本経済新聞社の「私見卓見」欄に掲載していただいた時のタイトルである(日本経済新聞の「私見卓見」の寄稿掲載に寄せて | LinkedIn)。

 あれから2年が過ぎようとしているが、この間、世界の自動車業界は「EV」に翻弄されてきたと思う。それは「EV(電気自動車)シフト」という世界自動車メーカーによるシフト計画の中に思いがけない陥穽があったからだ。

 当時、私は「私見卓見」の寄稿の中で、世界の自動車産業は今100年に一度という大きな変化、EV化(電気自動車)の波が来ているが、このままいくと日本は世界における自動車大国日本のポジションを失いかねないと述べた。理由は当時EU(ヨーロッパ連合)を中心にEV化(電気自動車)を契機に世界自動車産業における「主導権」を握ろうという動きが目立ってきていたからである。日本はEV関連のレギュレーションにおいてもEU(ヨーロッパ連合)に先行されていた。

 そのような情勢の中で日本としては、個別民間企業の「活躍」に期待するのではなく、政府としても戦略的にサポートし、「チームジャパン」のごとく官民一体の総力戦でこの100年に一度の大きな波を乗り越えていくべきだと述べた。なぜなら日本がEV化の波に乗り遅れると他国に自動車大国のポジションを奪われ、これまでのように日本経済をけん引していくことができなくなると考えたからだ。自動車産業に代わる主力産業を成長させていくまでは自動車に頑張ってもらうほかないからである。

 あれから2年間、世界の自動車メーカーが意欲的にスタートした「EVシフト」は順調にいくかのように思えた。しかし現実では様々な想定外の事態に遭遇した。

 ・1つ目は、中国BYDの進出により欧州自動車業界が当初目論んでいたようにEVシフトの先頭を走れる位置につけなかったことだ。BYDがこんなに売れるとは想定外だった。

 ・2つ目は、EVの弱点が顕在化したことである。北米の厳冬気候の中でバッテリー放電量が大きくなり走行可能距離が短くなるという事態が発生した。

 ・3つ目には、欧州においてEV購入補助金が停止になったことである。

 このような複数の要因によって、実際の顧客である自動車ユーザー側からの大きな揺り戻しが起こったのだ。一転してHV(ハイブリッド)車が売れ出したのである。

 これらの要因の中で私自身は1つ目の要因に着目した。それは欧米の老舗自動車メーカーを尻目に中国のBYDが一気に先頭に躍り出たことである。元はバッテリーメーカーであったBYDは自動車業界へ参入するや否や、あっという間にEV(電気自動車)分野で首位メーカーに成長したのだ。BYDの「開発スピードの速さ」と「圧倒的な低価格戦略」によってEV(電気自動車)市場においてはテスラを抜いてリーディングカンパニーとなった。

 BYDは、元は携帯電話向けのリチウムイオン電池メーカーだった。それが自動車の100年に一度の大変化、内燃機関エンジンから電気モーターへの転換という大きなイノベーションのタイミングを的確に捉えた。

 BYDが世界市場に投入した新型EV(電気自動車)はドルフィンにしてもシールにしても、従来の中国製自動車とは一線を画した性能とデザインであり、初めて目にした時、私は正直驚いた。とても洗練されていると感じたのだ。

BYDのEV

 私は「知見卓見」の中では、日本の各自動車メーカーが「自前主義」を守っているように見えていたことから100年に一度の大波を越えるためには、開発費と開発スピードの観点から、もはや「自前主義」ではなくメーカー同士で協力して開発していくことがカギとなること、さらに日本政府も知恵や予算を出し自動車メーカーと一緒になって「国家戦略的」にEV(電気自動車)開発に取り組んでいくべきだと述べた。それはあくまで日本としてのワンチームを提言したつもりであった。しかし、それは「自国主義」とも呼べる戦略だったと今は思う。

 ところが、中国自動車メーカーのBYDは「国」という枠をもとっくに突き破ってEV(電気自動車)を設計開発していた。EVの中心的な設計開発メンバーは外国人チームとも言える。欧州自動車メーカーのアルファロメオやアウディ、メルセデスベンツ等から外装内装チーフデザイナーや技術者を採用して設計開発を進めていたのだ。

 既にBYDは国の枠を超えて、新型EV(電気自動車)を開発し市場投入するための設計開発チームを国外メンバーで編成していたのである。リチウムイオン電池メーカーが初めてEV(電気自動車)開発に取り組み、しかも一気に世界最高レベルのEV(電気自動車)を開発できたのは、「自社開発」や「自国主義」にこだわらず、世界から能力とスキルを持つ「エキスパートを集めて活用」してきたからである。

 まさにこの考え方と実際の取り組みこそがBYDの大躍進の要だったのである。

 「エキスパートを活用する」!

 これはまさしく私たち「NewsPicks Expert」仲間とまったく同じではないか!と気がついた。身の回りのあらゆる商品や環境が加速度的に変化している今日、もはや新商品開発においても自社開発、自国主義にいつまでもこだわっていることは、ビジネスチャンスを逃すことに繋がりかねない時代になっている。新商品でも新サービスでも自社が考えたことは同時に他社も考えているのである。

 競争上優位に立つには、いかにスピーディに開発し検証し市場投入するかで勝負は決まる。これは自動車業界に限ったことではない。

 それは今までにように社内で時間をかけて人材を育てていくのでは間に合わないという可能性があるということだ。既にそんな時代に突入していると言えると思う。従って、企業が熾烈な開発ゲームに勝つためのポイントは、その領域において十分な経験を積み知識が豊富な「エキスパート」を有効に活用するということだ。

 自社に人材がいなければ社外から探してきてプロジェクトに参画させることである。それが他社に先駆けて開発し市場投入できる「カギ」になっている。あるいはBYDがやったように、丸々そのプロジェクト自体を外部からの「エキスパートチーム」に任せてしまうのである。

 これくらい思い切って戦略的にスピード開発していかないと、どんな分野や業界であったとしても他社や他国に出し抜かれてしまうことになるだろう。

 その意味では、各分野や各専門領域における若手エキスパートだけでなく、長年の経験から知見や暗黙知を有する「ミドル」や「シニア」もその道のエキスパートとして大いに出番が来ている時代になっていると思う。

 今回、自動車のEV(電気自動車)シフトという流れの中で、世界では既に「エキスパート」を戦略的にグローバルに活用する時代が来ているということをつくづく感じた次第である。


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