2025年、オールドメディアは「晒す」勢とどのように対峙するのか - 笹原達也 / #エキスパートアドベントカレンダー2024

2024-12-24

「#エキスパートアドベントカレンダー2024」とは、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。

今回は、笹原達也事務所 代表の笹原達也氏による記事をお届けします。

EXPERT

笹原達也

株式会社笹原達也事務所 代表
1964年生まれ。1988年、NHK入社。番組制作ディレクターとして16年、デジタルコンテンツプロデューサーとして13年、勤務。退職してIT関連コンサルタントとして活動中。

都知事選挙、衆議院議員選挙、そして兵庫県知事選挙は、気がつくと、SNSとオールドメディアの戦い3連戦とされて、結果、SNSの勝利が高らかに告げられました。

兵庫県知事選挙では、虚構なのか真実なのか、にわかには判断が出来ない“事実”がネット上に撒き散らかされて、それが結果を左右し、さらに、この後にもう一つの波乱を呼びそうな勢いでもあります。

これらの流れで浮かび上がったキーワードは「晒す」です。

さらに、この言葉の“最新”の使われ方が、この2つです。

三菱UFJ銀行貸金庫での窃盗を行った行員の名前や写真が何故、晒されないのか?
北九州の傷害殺人未遂事件の店内カメラの映像は何故、晒されないのか?

「監視カメラの映像を公開すれば犯人が早く捕まる」という何の根拠もないこの言葉はいつの間にか、事実のように呟かれていました。「まず晒せ!それから考える」というネット勢の声は、オールドメディアを圧倒しようとしています。

監視カメラ映像を編集せずに、そのまま見せて欲しいという声は少し前からありました。全部見たい理由として、映像の編集という作業を、真実を隠す、糊塗するための作業だと考えているようです。

しかし編集の目的は「見せない」ではなく「余計な情報を削ぎ落とす」ことです。長い時間、フィルム、VTR、最近ではデータメディアに収められた映像=情報をコンデンス=凝縮する作業が編集なのです。その上で視点=語り手を設定することで、その映像に関する判断を提示します。最近の言葉で言うなら「ナラティブ」でしょうか。

そもそも何故、編集するのか。それは、人が森羅万象、全てを知ることは出来ないからだと思います。何かを理解するために、有限の時間を有効に使うための策なのです。

この「晒す」と言う言葉を使う方々は、ネット上で「知った」または「勉強した」という表現を汎用する層です。「私が勉強して知った世界の真実」みたいな使い方です。まるで脊髄反射のように、出会した情報を「飲み込む」方々です。ネットの情報は誰かが既にまとめてくれていて、読みやすく、タイパが良いからでしょう。もう既に懐かしい言葉になっているタイパ=タイムパフォーマンスとは、費やした時間に対して得られる効果や満足度を表す言葉ですね。

しかし、このネット検索というタイパによって「知った」または「勉強した」ということは、検索エンジンを開き、キーワードを打ち、その結果を見ることで得ただけの情報です。アルゴリズムに導かれた検索の結果を、そのまま受け入れているだけなのです。

ちょうど、評論家の古谷経衡さんが、こんな文章をYahoo!ニュースに寄せてらっしゃいます。

[なぜ彼らはテレビよりSNSを信じるのか~「検索とクリック」という魔物~兵庫県知事選挙から1か月(古谷経衡) - エキスパート - Yahoo!ニュース]
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f3dc243808ed052f4deb69ccadd992e21648a429

漫画「ラーメン発見伝」(九部緑郎さん原作・河合単さん作画)の有名なセリフ、ご存じですか。

「やつらはラーメンを食ってんじゃない。情報を食ってるんだ!」

ラーメン屋さんに現れる蘊蓄を捏ねる人たちを一絡げにして表現しているセリフです。

ワタシが勤め人でしたとき、映画に詳しい若手と話していたら、彼がしきりに「この映画は◯○の◯位に選ばれていますから」「批評家の○○さんが推していますから」と言うのです。「あなたはどう思ったの』と訊ねると、また同じ答え。

そう、InstagramやFacebookに登場するポイントを貯めて乗ったファーストクラスの体験記や、予約の取れない超有名レストランなど訪問記は、まさに「情報」を食べているだけなのです。書き慣れない言葉を使っているせいか、誤字脱字も含めて、文章が酷い。

ある結論に辿り着くには、結局、能動的に調べて調べて考えて考えるしかないのです。

ワタシがこのNewsPicks Expertに携わらさせていただき、最も気をつけていることは、この調べ方と確認です。お題を戴いたとき、まず時間の限り調べます。そして、このとき、ネットメディアだけではなく、オールドメディアから得られる情報を必ず確認します。

これは、ワタシがオールドメディア出身であるからだけではありません。オールドメディアの記事がどのように作られているか、知っているからです。そして、陰謀論者の皆さまが語るオールドメディア像は殆ど間違っていることを知っていますし、またその弱点も知っています。

NHKはネット業務が必須業務化し、その船出が2025年10月です。また、日本テレビ系列4社の経営統合が発表され、民放の体制にも変革期が来ました。新しい時代の兆しです。放送業界のDX、いよいよ正念場だと思います。

オールメディアと言われる放送業界(含:新聞業界)は、DXによって、少しでもその動きの速度を上げ、「晒す」勢に対抗すべきです。

テレビはいつの間にか、箱から板になっています。それは、箱の中身が全部飛び出してしまって、畳まれてしまったからかも知れません。中身がなく、板状になってしまったことが、昨今のテレビ離れと言われる事態の原因かも知れません。でも、この箱の底には、何かに残っています。

箱と言えば、よく使われる例えに、ギリシア神話のパンドラの箱のお話があります。パンドラの箱とは「触れてはいけない、取り返しのつかない、凡ゆる災いが詰まっている箱」です。これを人類が開けてしまったとき、箱の底に残っていたモノが「エルピス」で、それは希望または災いの兆候だとされています。(筆者注:2022年10月期の月曜10時枠で放送された関西テレビ制作のドラマ「エルピスー希望、あるいは災い」を思い出します)

ワタシは、放送業界にとってのエルピスは、一つや二つではないと考えています。2025年は、多種多様な業界の方々を巻き込んで、このエルピス=アイディアを膨らませ、展開出来たら、と思います。

よろしくお願いいたします。


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