Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
2025年、マーケティング業界で最も印象に残ったのは、AI活用が「特別なスキル」から「日常業務の一部」へと完全に移行したことだ。ChatGPTをはじめとする生成AIツールは誰もが使えるようになり、データ分析の自動化も急速に進んだ。
特に加速したのが「バイブコーディング」と呼ばれる、AIとの対話を通じたコード生成である。PythonやBigQueryのクエリをAIに書かせ、実務で使える形に整えることで、従来なら数日かかっていたデータ分析やレポート作成を数時間で完了できるようになった。
私自身の実務でも、大手メーカーのD2C部門における商品改良データと売上データの組み合わせ分析や、競合動向の定期的なウォッチなど、以前なら手作業で集計していた作業をPythonスクリプトで自動抽出し、BigQueryで集計、可視化まで一気通貫で処理できるようになった。また、Google AI StudioとPythonを使った定性調査の文字起こしや、Google Notebook LMによる長大なテキストからの示唆出しも日常的に行えるようになった。
しかし同時に見えてきたのは、「AIを使えること」と「AIを使って成果を出せること」の間に、依然として大きな溝があるということだ。
「以下の文章を要約して」とテキストを貼り付けるだけでは、AIは目的を理解できず的外れな回答になる。コーディングでも指示が不明確だとロジックに穴ができ、想定外のケースへの対応が不十分になったり、データ構造の理解が浅くなったりする。SQLのクエリも一見正しく動いているように見えて、実はJOINの条件が甘く、アウトプットが上手くいかないこともある。アンケート集計では勝手に調査項目を追加されたり、論点を勝手に作り出されることもある。
これらの問題に気づき修正できるかどうかは、最初のプロンプトが重要だ。何を目的に、どういった手法を採用し、何を成果として出したいのか、前提条件を共有し、過不足があれば質問をしてもらう。きちんとしたロジックでやりとりすることで、アウトプットの精度を高めていくことが重要である。
さらに、AIが出したデータ分析の結果をアウトプットに落とし込めるかどうかも重要だ。このデータは何を意味しているのか、どのような施策につながるのか、経営陣にどう説明すれば意思決定を促せるのか。こういった問いに答えるには、AIが出してくれたアウトプットに自分の知見や経験、周りの状況、対象者等を加味して、読んで理解してもらえるアウトプットに仕上げていかねばならない。ここはさすがにAIには頼めない。最終的なアウトプットは自分で作らないと、周りに納得してもらえるものにはならない。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
この変化の背景には、大きく3つの要因があると考えている。
第一に、生成AIの民主化だ。ChatGPT、Gemini、Claude等の生成AIが無料または低コストで利用できるようになり、特別な技術知識がなくても誰もが使えるようになった。これにより、マーケターが自らコードを書くという発想自体が一般化した。
第二に、マーケティング業務のデータドリブン化の加速だ。従来は「勘と経験」で判断していた領域でも、データに基づく意思決定が求められるようになった。しかし、データアナリストを雇う予算がない企業も多く、マーケター自身がデータを扱える必要性が高まった。そこにAIという強力な助手が登場したことで、非エンジニアでもデータ分析が可能になった。
第三に、業務効率化への圧力だ。人手不足が深刻化する中で、少ない人員で成果を出すことが求められている。AIを活用した自動化は、もはや「やった方が良いこと」ではなく「やらなければならない」になってきていると考えている。
ただし、ここで重要なのは、AIツールが普及しても「使えるだけ」では差別化にならないということだ。誰もが同じツールを使える時代だからこそ、ロジックを組める力、AIの出力を評価できる力、そしてビジネスの文脈に落とし込める力が、マーケターの価値を決める時代になったのだ。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
2026年以降、AIを活用した業務はますます高度化していくだろう。そうなったとき、「AIを使いこなせる人」が有利なのは間違いない。しかし、それ以上に重要になるのは、ロジックをきちんと組める人、AIの結果に対して的確に言及できる経験と知識を持つ人だと私は考えている。
具体的には、以下のようなスキルセットを持つマーケターが求められるようになる。
まず、マーケティングの本質的な思考力だ。AIがどれだけ進化しても、「何を目的に」「誰に対して」「どのような価値を提供するのか」というマーケティングの根幹は人間が考えなければならない。AIはその実行を助けてくれるが、戦略そのものを代替することはできない。
次に、データ分析の基礎力だ。AIが出力したデータやコードが正しいかどうかを判断するには、統計やプログラミングの基礎知識が不可欠だ。表面的にAIを使えるだけでは、間違った分析結果に気づけず、誤った意思決定につながるリスクがある。
最後にアウトプット力だ。AIが出した分析結果を、ビジネスの文脈に落とし込み、経営陣や現場を動かせる形にまとめる力は、今後ますます重要になる。データは正しくても、伝え方が悪ければ何も動かない。
2026年はさらにAIが進化する年。AIエージェントがより重要なキーワードになってきて、人間の仕事が一層効率化される可能性があると考えている。その中にあって、人間の仕事は「ビジネスの文脈を理解し、データの意味を読み解き、施策に落とし込む」ことに変わりはない。そのため、AIの使い方を学ぶだけでなく、マーケティングの本質的な思考力とデータ分析の基礎力を磨き続けることは今も、今後も本質的に重要であることに変わりはないと、私は考えている。



