Q1. いま特に関心を持っているテーマ・活動は何ですか?
私は観光DXや観光調査を専門分野としており、日頃の業務では、特にデジタル技術を活用したEBPM(証拠に基づく政策立案)の推進やワーケーションの受入環境整備に取り組んでいます。
今、関心を持っているテーマは「地方におけるデジタルノマド誘致」です。デジタルノマドとは「パソコン一つで世界中を旅しながら生活する人々」を指します。私自身も日頃からデジタル技術に触れているため、そのライフスタイルにあこがれを抱いています。2022年のJTB総合研究所のコラム等によると、グローバルに行動するデジタルノマドは約3500万人存在し、現在も人口は増加傾向にあるとされています。
オーバーツーリズムを招きやすい一時的・局所的な観光消費とは異なり、デジタルノマドは長期滞在して「生活」を営むため、地元のスーパーや飲食店を日常的に利用します。地域経済の循環に広く関わる彼らは、観光の恩恵を受けにくい地方にとって非常に魅力的な存在です。
観光庁もデジタルノマドを「地方への分散の起爆剤」として期待しており、2025年度も誘客支援事業を継続しています。また、出入国在留管理庁が2024年4月より「デジタルノマドビザ」を施行したことも、誘客への大きな追い風となっています。
こうした中、宮崎県日向市では、世界大会が行われるサーフスポットを活かし、「リラックスサーフタウン」としてサーフィンによるまちづくりや移住定住政策を行っています。
中でも全国的に知名度の高い取り組みが「人・自然・街を活かしたワーケーション受入」です。ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語で、旅先で働きながら仕事をする就労形態のことを指します。このワーケーションに関して、日向市はコロナ禍の2020年から観光庁の補助を得て企業型ワーケーション(BtoB)の受け入れ、2024年度からはデジタルノマド受入の環境整備を行っています。
2025年度からは、市内の事業者、市民、行政、観光協会が一体となった「日向市ワーケーション推進会議」が「民間主導のワーケーション・デジタルノマド受入」を推進する方向で活動しています。
直近の大きな活動としては、2025年11月に「ビギナーズノマドサミットin日向」というイベントを開催しました。全国からデジタルノマド(初心者・経験者)やコリビング施設運営者などが集まり、「デジタルノマドの目的地としての日向市の可能性」について活発な意見交換が行われました。
日向市にはコワーキングスペースや高速Wi-Fi等のハード整備に加え、長年のワーケーション受入で培った官民の協力体制があります。これはデジタルノマド誘致において他地域と比べて優位性があると考えています。今後も民間が主体となったBtoCの受入が進んでいくため、観光協会の職員として、その支援に尽力したいと考えています。
Q2. そのテーマ・活動を通して、どんな発見や気づきがありましたか?
私が所属する日向市観光協会では、観光物産施設の経営や観光DXの調査研究、観光案内などの業務を幅広く行っています。これまでの顧客である「観光客や旅行業者」に加え、新たに「ワーケーション実施企業やデジタルノマド」が対象になったことで多くの発見や変化がありました。
大きな変化の一つは、2024年度からBtoBの企業型ワーケーションに対応するために旅行業の登録を行い、事業を開始したことが挙げられます。ワーケーション滞在者やデジタルノマドは、観光客とは異なり、長期滞在の中で「生活と仕事と休暇」が一体となった過ごし方をします。そのため、長期の宿泊手配や余暇を楽しむ観光体験費用等を一括で請求・支払いできる包括的な対応が重宝されます。これに対応するには、包括料金での取引が可能な旅行業の機能が不可欠でした。現在は、私自身も受入のための旅行業務を担当しています。
このようにワーケーション受入の担当者としてワーケーション実施企業や滞在者、デジタルノマドと関わる中で一般の観光客とは異なる部分に様々な気づきがありました。
大きな気づきとしては、「地域コミュニティの関わりに対する期待感の高さ」です。特にデジタルノマドの方々は、パソコン一つで世界を旅しながら仕事や生活ができるフットワークの軽さを持ちながらも、滞在先でのコミュニティ参加を望む傾向があります。
これは、遊牧民を意味する「ノマド」という本質に表裏一体な「孤独感」という課題が、デジタルノマドの地域交流を意識させる要因になっていると考えています。
具体的なエピソードとして強く印象に残っているのが、バリ島から来たデジタルノマドの20代女性が、滞在最終日に「たくさん出会いがあったけれど、もっと同じ世代の子たちと交流したかった」と話をしてくれました。「あぁ、目上の人たちばかりを紹介していたからなぁ・・・」とハッとさせられたことを覚えています。
この反省からも、コミュニティやつながりを希求するワーケーション滞在者やデジタルノマドは、人口減少する地方において重要な「関係人口」になりえると実感しました。また、近年のデジタルノマド界隈では、移動による疲労を避けて滞在地に数か月単位で暮らすスタイル「スローマド」の傾向が強まっています。前述した「日向市ワーケーション推進会議」のコミュニティ機能強化や地域のキーパーソンとなる「コミュニティマネージャー」の育成が今後の誘致において急務となっています。
今後は観光客、ワーケーション滞在者、デジタルノマド、それぞれの関係性を大切にしながら、旅行事業を通じた地域経済の循環と活性化に取り組んでいきたいと思います。
Q3. 今後、その関心領域とご自身の専門性をどう掛け合わせていきたいですか?
私は大学に所属しない「在野の専門社会調査士」として、観光協会の調査事業を設計から報告まで一貫して担当しており、これまでスポーツマーケティング調査事業やボランティアガイドの持続可能性に関する調査研究等を行ってきました。「調査は社会と人の心を動かす」という信念のもと、日々業務に取り組んでいます。社会現象や課題についてデータを収集・分析し、現在や過去の状態を明らかにすることが得意分野なので、今後はワーケーション滞在者やデジタルノマドの人々に関して経済的・文化的側面で日向市での活動を事例に調査研究(効果検証等)を行いたいと考えています。
さらに調査研究した結果を地域に還元することで「稼ぐ地域づくり」や「関係人口創出」に寄与することが目標です。エキスパートの皆様は多種多様な専門性をお持ちだと思います。ワーケーションやデジタルノマド、あるいは地域活性化の調査研究にご興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひ情報交換や連携をさせていただけますと幸いです。



