Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
2025年の在宅医療、介護領域では「民間事業者によるホスピス」と呼ばれる、アンビスホールディングス、サンウェルズの2社による介護報酬、診療報酬の不正請求問題が露呈した。
いずれも東証プライム上場企業(当時)で、安定した経営基盤の下、これまでに無かった在宅医療/終末期のケアを提供することに成功し、社会的な評価を得ていた矢先の話であった。
興味深いのは、2社いずれも同じ問題構造を孕んでいるが、介護現場/拠点からの内部告発によるものであったことだろう。奇しくも2社の問題は似たような経過をたどりつつある。この問題は、許認可を司る自治体(都道府県もしくは政令市)の判断、行政指導が待たれているが、画一的/同一の介護事業に対する運営指導が出来ないという盲点も付いており、全社全拠点一斉の対応が速やかに進まない点が指摘されて良い。
また、事態の本質は現時点でまだ解像度が低いともいえる。2社とも不祥事の発生は一定のレベルで追認している状況にあるが、基本的には一部メディア(共同通信社市川亨氏による自主取材)による報道と、アンビスホールディングス、サンウェルズ両社による自主点検の結果公表によるものでしかない。それは、上記の行政指導がなお実施できていないことも影響があり、従業員、ないしサービスを利用する医療的なケアが必要な高齢者になお、不安を与え続けている。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
2016年の診療報酬改定以降、入院患者に対する「病院から在宅ケアへ」という施策に舵を切った。以降医療機関の病床数削減と合わせ、行き所が無くなってしまった多数の終末期医療を必要とする高齢者の受け皿として、民間ホスピスは立ち位置を作ってきた。
その実態は、住宅型有料老人ホームを活用し、既存の訪問介護、訪問看護を大量に活用することにより、医療機関で言う療養病床同等のサービス提供に成功したものだ。
アンビスホールディングスは「医心館」として、常時医療的ケアを提供するサービスを、サンウェルズは「PDハウス」として、神経難病(パーキンソン病)患者を受け入れ、この「民間ホスピス」という事業を成熟させてきた。
両者は「民間ホスピス」を標榜しつつ、ほぼ同じ運営形態を持ちながら、受け入れのターゲットも異なり「似て非なる」関係ともいえる。これは一般の方々に伝わりにくい点でもあり、一部の医療介護関係者の誤解を招いている最たる点かもしれない。
そもそも「ホスピス」は終末期医療の場として、従来から存在してきた。だが、利用してきたのは一部の富裕層が中心で、保険適用より自費の負担が大きい奢侈なサービスであった。これを「民間ホスピス」は庶民の手許に引きずりおろしたという側面もあろう。看取ることの選択肢を増やし、看取る家族の負担軽減に繋がった側面は認めざるをえない。
ただ、社会的な意義を見出されてきた一方で、このサービス形態に対する行政側の取り組みは完全に出遅れたのは事実だ。今になって=事業体の成熟を見て、改めて規制に乗り出そうというのは完全に後手に回っている。それは、コロナ(2019年~)も相まって、こうしたサービス形態に対する対応がたと遅れてしまったという側面もあるのだろうか。
民間ホスピスはこうした経緯をたどりながら、改めて我が国の在宅医療、終末期ケア、そして介護一般に対し鋭い問題提起がされているという状況にある。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
2026年は2年に一回の診療報酬改定の年にも当たる。そこでは、民間ホスピスを念頭にした訪問看護サービスの在り方の見直しが目下積極的に提起されている。また、介護報酬も高市政権/政府主導により待遇改善を念頭に置いた改定が決まった(11月21日)ことから、介護報酬においても民間ホスピスに対する見直しが進みかねない状況にある。
この影響は、アンビスホールディングス、サンウェルズ両社の運営に直撃するのはもちろんだが、これに追従して生まれた小規模の民間ホスピスの運営に対する影響の方が大きいのかもしれない。両社に憧れて全国で経営コンサルタントも企画を提案しながら、その模倣=劣化コピーともいえる民間ホスピスも多数誕生している。これらは、新たな厚労省の規制に耐え切れず撤退や事業転換の道などを余儀なくされるのかもしれない。
また、民間ホスピスへの行政指導は「越年」した格好だが、2027年は介護報酬の定期改定が控えるので、2026年中の行政指導は不可避になった。そこでは、自治体ごとでの指導の「格差」が問題になり、何らかの軋轢を生むかと筆者は危惧する。
筆者は現在ヘルスケアに腰を据える人間でありながら、こうした民間ホスピスへの距離がある立場にある。アンビスホールディングス、サンウェルズの2社へのインパクトは、行政処分を強く望む一部の業界関係者の意にそぐわない結果を迎えると見ている。
ただ、問題はそこではなく、問われているのは「多死社会」を迎えている2020年代に入り、改めて日本人の「おくりびと」は誰が務めるべきか、しかるべき制度とは何かという根源的なテーマを突き付けていよう。それは、民間ホスピスに反目し是としない一部の業界関係者に鋭くブーメランが飛んできているということだ。「死」ですら消費コンテンツにある現代で、倫理的な問題を起点に再考すべきタイミングなのだろうかと思料する。



