Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
皆さんは、生成AIをどの程度、日常の中で使っていますか。
私自身、実務・事務的な作業・家事の段取りまで、あらゆる作業を生成AIに頼り、そのお陰で劇的に効率が高まった実感があります。一方で、次から次に登場する新モデルや新機能を試したり、際限なく相談事をしたり、画像生成に没頭したりと、「AIで時間を創出しつつも、AIに時間を投入している感覚」を今年ほど強く意識した年はありませんでした。
生成AIの進歩があまりに早く、利便性と同時に「どこか落ち着かない感覚」を抱き始めている方も多いのではないでしょうか。そんな今だからこそ、生成AIの進展を持続可能な形で社会に組み込むために、考えておくべき視点を共有したいと思います。
◎ AIの「影の側面」が顕在化
2025年のニュースを振り返ると、生成AIの急拡大に伴う環境負荷が、大きな論点のひとつであったと感じています。環境・サステナビリティ分野のNewsPicksのプロピッカーとしても、今年はこういったニュースにコメントする機会が大幅に増えました。
2024年までの世の中の議論が、主に「AIの可能性」や「ユースケースの拡大」に集中していたのに対し、2025年は明らかに、AIを支えるインフラの「影の側面」が注目され始めた一年だったと感じています。
◎ AIによる社会的摩擦
現在、世界には約12,000ものデータセンターが存在しており、米国に世界のデータセンターの約半数が存在していると言われています。米国では、AIインフラ強化が国家戦略として示され、各地で大型施設の建設計画が進んでいます。
しかし、州や地域レベルでは、水資源や電力網への影響などを理由に、反対運動が広がっています。
Data Center Watch の報告によれば、2025年9月までの過去2年で米国内で少なくとも 24州、140以上の市民団体・住民グループが、データセンター建設に反対する運動に関与しているとされており、少なくとも米国においては、全国的なムーブメントへの広がりが確認できます。
◎ 反対運動が起きる構造的背景
なぜデータセンター建設に反対運動が起こるのかというと、主に次のような懸念があるためです。
①サーバーや演算装置、その他冷却や施設運営のための電力消費・エネルギー負荷
②サーバー群が発生させる大量の熱を取り除くために、地域の水を冷却設備に使用することによる水不足・枯渇リスク
デジタル社会がもたらすエネルギー負荷や炭素排出、水の過剰利用の課題は、少なくとも2010年代から研究者の間で指摘されてきました。とはいえ、こうした課題が日常的にニュースで取り上げられ、公共的な議題として扱われるようになったのは、2025年が初めてと言ってよいでしょう。
従来の環境問題は、採掘現場の負荷や電子ごみの最終処分といった環境リスクが、主にグローバルサウス側に外部化される(負担が及ぶ)ケースが多く、先進国からは遠い問題として扱われがちでした。
しかしAIインフラのサステナビリティ課題は、その構図を大きく反転させています。生成AIのグローバル需要(なかでも先進国以外の地域を含む世界中のユーザーによる利用拡大)が、先進国に立地するデータセンターの電力や水のリスクとして逆流し、地域に直接的な負荷を与える可能性があるのです。
この「環境負荷の逆流構造」は極めて例外的であり、先進国における政治的・社会的な反応が強くなりやすい点が、興味深い構造的な特徴です。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
2025年にAIによる環境負荷が社会の大きな関心事として浮上したのは、次の背景があるためだと感じています。
◎ データセンターの拡大傾向
一点目は、データセンターが増えているからです。
米国や欧州ではここ数年、AIを次世代の基盤技術と位置づける流れの中で、クラウドやデータインフラへの投資が続いていました。国際エネルギー機関 (IEA) によると、世界のデータセンター設置容量の年間成長率は、2022年から2023年に12.3%、2023年から2024年に16.7%、2024年から2025年に17.7%と右肩上がりになっています。

2025年はMeta Platforms や Google をはじめとする複数の大手企業が、大規模なデータセンター建設計画を一斉に公表し、世間の注目を集めた年でもありました。
データセンター自体が増え続けていることで、水資源や電力網、土地利用をめぐる利害関係者が増え、注目度も高まり、地域との摩擦が顕在化しやすくなっているといえます。
◎ 個人利用の加速と高負荷AIの拡大
二点目は、企業利用を上回る勢いで広がった個人ユーザーによる、高負荷な生成AI利用の存在です。
生成AI技術は、2023年の導入ブーム当初、主に労働領域における劇的な生産性向上と業務変革を担うテクノロジーとして位置づけられていました。初期のユースケースに関する調査では、その活用領域として、報告書やメールなどの文章執筆、添削や校正、報告書や議事録などの要約といった、テキスト系業務の効率化に期待が集中していました。
しかし、業務面での恩恵は、まだ当初期待されていたほどの域に至っていないといえます。理由として既存の研究が伝えているのは、データ基盤不足やセキュリティ環境整備の難しさ、人材不足といった課題がAI導入を停滞させていることや、産業間格差が著しく存在することです。米国国勢調査局が実施する調査によれば、米国の大企業においてAI利用率が、2025年6月から8月にかけて、約13.5%から約12%へと減少したというデータも存在し、初期の試験的導入が大規模展開に至る前に、壁に突き当たっている様子が確認されています。
一方で、コンシューマー向け生成AI技術は、驚異的な速度で普及してきました。
S&P Global Market Intelligence の調査によると、2024年前半時点で、米国のインターネット利用者のうち約24%が生成AIツールを使っていたが、2025年後半には約46%まで増加したといいます。
生成AI利用は、実務や生産性向上だけでなく、個人による娯楽的創作や相談、ちょっとした思いつきを形にする領域にまで広がっています。特に2025年に公開された動画生成や画像生成のモデル進化には目を見張るものがあり、ただプロンプトを入力するだけで、高品質な動画や画像が次々に出力されるようになりました。
こういった技術進化もあり、個人利用の広がりは「実務の効率化」よりもむしろ、創作・遊び・表現といった領域で加速しました。高精度の画像生成や動画生成が誰にでも使えるようになったことで、日常的な思いつきをそのまま形にする行為自体が一般化し、生成量そのものが急増しているのです。
この「誰でも簡単に作れる環境」が、アテンション・エコノミー(注目の獲得が価値になる経済)やSNSとも結びつき、フェイク画像・フェイク動画の拡散を後押しする状況も生まれています。生成AIが本来期待されていた生産性向上とは必ずしも一致しないアウトプットが、大量に生まれる状況も生じているわけです。
Text-to-Video 生成技術(テキスト指示から動画を生成するAI技術)は、生成時間が2倍になるとエネルギー需要が4倍になるという非線形な負荷構造を持ち、娯楽的な大量生成を個人が際限なく行うことによる環境への負荷は大きいと言われています。
例えば、生成AIによる1枚の画像生成は、スマートフォンのフル充電とほぼ同等のエネルギーが必要であり、5秒間の動画生成は電子レンジを1時間以上連続で稼働させることに相当することを示す研究も、最近発表されました。
企業利用は内部統制や監査が伴うため、生成AIの利用にも一定の倫理的ガバナンスが働きます。一方で、個人利用はその制約が事実上なく、創作や娯楽目的で際限なく回される構造にあることが、AIインフラ側にとっては見過ごせないリスクになりつつあります。
象徴的だったのは、米国の感謝祭休暇に動画生成の利用が急騰した際に起きたことです。OpenAIの動画生成AI責任者は、データセンターのGPUサーバーが高負荷で逼迫した状況を「GPUが溶けている」と例え、無料の動画生成回数を一時的に制限する対応が取られました。
一般ユーザーが、このような裏側の負荷構造を意識しながら生成AIを利用しているとは言い難く、モデルの高性能化と利用者の裾野拡大が続けば、いずれ計算資源・電力・水といった物理的制約がボトルネックとして顕在化するのではないか。そうした懸念を抱かせる象徴的な事例だったと言えます。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
2026年以降、生成AIの急拡大は、これまでの「国家戦略や技術の進歩が成長を牽引する」という直線的なフェーズから、「物理的な制約と社会的制約のはざまで進路を調整していく」フェーズへと移行していくと考えています。
特に、以下の三つの構造的制約が、今後の生成AIの進化スピードを左右していくはずです。
① 用地・電力・水といったインフラ供給の限界
② データセンターがもたらす環境悪化の実観測
③ AI投資のスローダウン
なかでも、①の電力網の逼迫や冷却水・用地の確保難といったインフラ由来の制約は、すでに複数の地域で現実的な課題として表面化しつつあります。米国や欧州では、送電容量不足による建設計画の遅延、水ストレス地域での住民反対や許認可の厳格化などが相次ぎ、技術開発よりも早く「物理的制約の存在」が可視化され始めています。
②の地下水位の低下などの目に見える変化が社会的反発や規制を生み、ブレーキが強まることもあるでしょう。
最終的には、これらの外部要因が投資家の期待形成にも影響を与え、③のAI投資のスローダウンにつながっていく可能性があります。(なお、AI 投資の勢いが鈍る可能性については、インフラ制約以外にも、先端半導体の供給網の逼迫、巨額の設備投資を支える資金調達コストの上昇、そして AI 企業側で十分な収益モデルがまだ確立途上にあることなど、複合的な要因から指摘されています。)
こうした複数の制約が同時に関わってくる2026年以降は、「技術が勝手に成長していく時代」ではなく、「成長させ方を選ばなければいけない時代」になるはずです。
AIの未来は、性能だけでは決まりません。社会がどのように使うか、そしてどのように使わないかを選び取ることが、これまで以上に重要になります。
◎「もったいないAI」の時代、始まる
生成AIの裏側を支える主要テクノロジー企業の多くは、再エネ調達拡大やネットゼロ達成を中長期目標として掲げており、データセンターの水問題やエネルギー問題に対しても真摯に取り組もうとしています。
しかし、AIが今後もますます社会に浸透していくことや、AIモデルのさらなる高度化に伴う電力需要の急拡大を考慮すると、これらの目標が達成できるかは、いまだ不透明です。
だからこそ今後は、企業側の取り組みに加えて、ユーザー自身がどのようにAIを使うのかという「利用の質」 が、これまで以上に問われてくるはずです。
私は、「AIの進化」か「環境保全」かの二項対立ではなく、「創造性と資源制約をどう両立させるか」という問いに取り組みたいと考えています。
大切なのは、無尽蔵に際限なく生成するのではなく、資源利用の分野で積み上がってきた節度の考え方をAIにも適用し、「もったいない」という感覚をもって、利用の質を問い直すこと。私達が創る価値を、資源や地球の持続性と両立させることが重要だと思います。
ただし、人の「もったいない意識」に過度なセルフコントロールを求めるのは、現実的ではありません。だからこそ、これまで世界が環境問題に対応するために編み出してきた、様々な施策の応用を検討しなければなりません。
例えば、以下のような施策が考えられます。
利用モードごとに エネルギー消費量や水使用量を可視化(環境ラベリングの考え方)
「AI利用クレジット(利用枠)」をユーザーごとに割り当て、必要に応じて追加購入できる仕組み(クレジット/バジェットの考え方)
高負荷推論(例:動画生成)に年間上限を設定し、大口ユーザーには追加枠の購入を求め、未使用枠は市場で流通させる仕組み(総量管理の考え方)
AI利用に「必要以上の大量生成」を誘発しないようなデフォルト設定とする仕組み(ナッジの考え方)
利用者の少ない時間帯の利用にインセンティブを与える仕組み(時間帯別料金やダイナミック・プライシングの考え方)
今後、利用者の利便性を損なわずに効果の高い施策を模索していく努力が、AI企業側にも求められてくるでしょう。
2026年はこのように、生成AIとの「距離感」を問い直し、AIの利便性と持続可能性をどう両立させるのか。その問いに本気で向き合う議論が動き出す年になりそうです。



