Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
2025年、建設業界において最も印象的だったトピックは、長年の構造的課題であった人手不足、コスト高騰、そして法規制(2024年問題)という「構造的危機の同時収束」が臨界点に達し、業界が「否応なしの淘汰フェーズ」へと移行したことです。
私自身、リーマンショック以降、海外子会社の再建を通じて常にインフレと戦い、利益率向上にこだわり続けてきた経験から断言できますが、生産性改革はもはや「競争優位性」ではなく、「強制的な生存条件」へと変質しました。
特に、2024年4月に適用された時間外労働の上限規制(2024年問題)が実質的な「時間生産性の法定制限」として本格化し、長時間労働と「どんぶり勘定」に依存した従来の経営モデルが、法的に、そして財務的に立ち行かなくなった点が核心です。
生産性の低さは、直接的に「利益の確保能力の限界」として露呈し、案件はあっても「利益なき繁忙」に陥る企業が続出。その結果、各企業の「経営品質」が明確に可視化される年となりました。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
この危機的な変化が起きた背景には、弊社の専門とする「統合最適化」の視点から見て、以下の三つの要因が複合的に作用しています。
第一に、労働時間規制による「時間生産性の壁」の発生です。これは単なる労働時間の制約ではなく、最高責任者である社長に対し、「法定時間内で確実に利益を出すためのROI(投資対効果)を確保せよ」という、経営の本質的な問いへの回答を強制したことを意味します。従来の「時間を投入して乗り切る」という非戦略的な対応は完全に崩壊しました。
第二に、「原価管理の戦略的破綻」と「価格転嫁力の喪失」です。建設コストは2021年1月比で全建設コストが約30%も上昇しており、収益構造は著しく圧迫されています。このコスト増に対して、建設事業の実態と乖離した「伝統的な原価計算」に基づいた「どんぶり勘定」の経営が致命的なダメージを与えました。海外再建で培った経験から言えるのは、正確な原価を把握し、このコスト増を適切に価格転嫁し、利益を確保する「戦略的な値決め」ができない企業は、需要があっても利益を生まない「利益なき倒産」に向かうということです。
第三に、「人材市場からの信用の喪失」です。高齢化と若手人材の低い定着率という状況下で、労働環境改善(週休二日制など)を怠る企業は、未来の労働力を確保するための「最低限の必須インフラ投資」ができない企業と市場から見なされました。結果、需要があるにもかかわらず、時間・コスト・人員の制約で案件を処理できずに破綻する「供給能力の構造的限界型倒産」という、戦略的な失敗による異例の倒産が表面化しました。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
この生産性改革の強制は不可逆的であり、今後、建設業界は「戦略的なポジショニングによる二極化」の道をたどって進化・展開していくと考えられます。
■ 強者の戦略:大手企業の「オートメーション化」
大手企業は、大規模な資本力と「規模の利益」を背景に、国土交通省のi-Construction 2.0に沿った「サプライチェーン全体のオートメーション化」へと舵を切ります。これは、2040年度までに省人化3割(生産性1.5倍)を目指すという目標達成のため、BIM/CIM、遠隔・自動化技術を先行導入し、「資本による時間生産性の確保」を図る強者の戦略です。
■ 弱者の戦略:中小企業の「集中と特化」
一方、資本力に劣る中小企業は、生き残りのために「ランチェスター戦略」に基づき、経営資源を一点に集中させる「集中戦略」を採る必要があります。
「ローコスト・クイックウィン型DX」による時間生産性の最大化:高価で全社的なシステム導入ではなく、SaaS型ツールを活用したローコスト・クイックウィン型DXを推進します。特に、事務作業などの非生産的な間接業務を徹底的にデジタル化し、現場の時間を創出することがROI確保の生命線です。
「戦略的原価管理」と「適切な価格決定力」の確立:プロジェクトごとの利益をリアルタイムで把握できる「ダッシュボード」を導入し、コスト高騰分を適切に価格転嫁できる経営体制を構築します。これにより、価格競争から脱却し、「高収益なニッチ市場でのNo.1」を目指します。
生産性向上やDX、GX(グリーン建築)への取り組みは、もはや「成長戦略」ではなく「事業継続のための必須インフラ投資」です。
2026年以降は、自社の経営資源を戦略的に投入し、「時間あたりの収益性」を向上させた企業のみが淘汰フェーズを生き残り、次の成長ステージへ進むことができると予測します。



