Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
第2次トランプ政権の誕生後、Make America Great Againの大号令の下、米国内産業の再生が大きな話題となっております。
造船業界については、圧倒的世界シェアを誇る中華人民共和国、それを辛うじて追従する韓国、そして日本、規模を縮小して存続を図る欧州、ざっくりと俯瞰するとそのような世界的構造が見えてきます。そして、それらに遠く及ばない米国の造船業、既に瀕死の状態と申し上げても過言ではありません。
船舶建造、それは海洋という過酷な環境を克服し、世界の海を航海するための輸送手段を確保するため、長年積み上げられた技術、先進性、丁寧な仕上げ等々、多くの要素に裏打ちされた産業なのです。
米国の造船業は、世界最大の原子力空母、原子力潜水艦等先進的かつ高度な軍艦を建造する能力を未だに保有しております。しかしながら、商船の建造に関しては、1980年代後半から急激な落ち込みを見せ、一時は増加傾向もあったものの、ここ数年は「ほとんどない」と評価して差し支えないレベルが継続しております。
トランプ第2次政権では、このような瀕死の産業を他国(韓国、そして日本)の力を投入して再生しようと試みる意図のようです。確かに、造船業を適正なレベルで維持する事は国家安全保障の視点から申し上げれば「1丁目1番地」であり、特にインド太平洋への海洋進出を目論む中華人民共和国への備えという意味においては、必須の産業であると申し上げても差し支えないと考えております。
ところがその産業は既に荒廃し、個人的には「道に倒れた老人が緊急搬送され、延命措置を受けているレベル」と表現している次第です。
その国の「基幹産業」と位置づける製造業の一部を既に韓国企業に売り渡し、更なる投資を求める、フィリー造船所はあくまで商船の建造施設としての位置づけではありますが、肝心な軍艦製造ラインも混迷しております。
少なくとも10隻程度を建造すると見られていたコンステレーション級新型フリゲートの調達中止が最近キャンセルされました。設計の困難性や建造コスト増加等が原因となり取りやめられた様ですが、そもそもオリジナルの設計ではなく、イタリアのデザインをベースに開発するというあたりに、米国軍事産業(造船)の綻びを見たような思いを感じました。
さて、米国造船業への投資、技術協力等を日本に求める声は様々なレベルで絶えません。日本国内でも声が上がっております。今後前向きに進むのか、気になるところでしょうが、個人的には深入りしないことが肝心だと考えている次第です。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
米国造船業の衰退は、ジョーンズ法による米国製船舶の使用義務付け、80年代はじめまでの補助金支給による支援等の国家政策に、米国造船業界が「胡座をかき」、コスト競争力の改善や先端技術開発、クオリティー向上、将来の人材育成等当たり前の努力を怠ってきたためと考えられます。
このように、「産業を守る」という行為は、守られる方の当事者が高い意識を持つ事が必要で、守られるからにはかなりの身を切る覚悟が必要であり、これは我が国にも十分当てはまる事だと考えております。裏を返せば政府の手厚い援助で世界シェアの1位、2位を占める中韓ですが、遠い将来までこのような保護が継続するのか、注目すべきですし、これらの地位を保護なしに維持するだけの高い当事者意識が育っているのか、雇用、技術、生産性等幾つかのファクターを通じて見ていく事が必要と思われます。
米国造船業は、原子力潜水艦を造れるのですからそれなりの技術レベルは有しているはずです。それらを商船建造レベルにブレイクダウンし、尚且つコスト競争力を育てて行く、こうした取り組みが出来ない、というのはやはり「人」に問題があるのだろうと考えざるを得ません。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
ここ1~2年は、韓国企業ハンファグループが傘下に収めたフィリー造船所がどのように再生されるのか、注目する必要があります。韓国企業がどれだけのヒト・モノ・カネ、そして技術を投入するのか、米国人をどのように雇用し、育てていくのか、また、韓国本国の造船業界の人手不足とどのように付き合い、米国と関わって行くのか、これらの点をフォーカスしつつ、行く末を見守っていこうと考えております。
一方で、米国安全保障の根幹と位置づけられる軍艦の建造については、次期駆逐艦(DDG(X))プログラムの進展に注目すべきです。米国造船業の設計力が未だに健在なのか、これからの数十年間をリードできる技術力と創造性に溢れているか、それを実現するためのコスト競争力が備わっているのか。こうした視点で注視していこうと思います。
また、このような課題は、当に日本の造船業界にも当てはまるもので、他山の石としてきちんと捉え、日本の造船業界にも教訓として反映する配慮が必要と思われます。
米国造船業への支援につきましては、国内造船業界のトップ等が仰る様に、「先ずは足元の国内生産基盤を固めるのが優先」という方針で進める必要があると考えております。余力はありません。政府の方針とは異なる事もあろうかと存じますが、資源・資本は国内に集中すべきと思われます。日米同盟の観点から協力を惜しむべきでないとのご意見があるのは承知しておりますが、先ずはきちんと足元を見て、体力を付け、国際競争力を向上させることが第一であり、米国への積極的協力は近い未来にはないと考えております。
以上でコメントを終わります。来年が良い1年でありますよう、祈念しております。



