AIが「魔法」から「文房具」になった日。 - 清水智 / #エキスパートアドベントカレンダー2025

公開日: 2025-12-19

「エキスパートアドベントカレンダー2025」とは、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。

今回は、HAKUBA EdTechの清水智氏による記事をお届けします。

テーマは「ご自身の専門領域で2025年に起きた“最重要トピック”と、その背景・今後の見立て」です。
2025年にその専門領域で起きた象徴的な変化を取り上げ、背景にある構造的な動きを紐解きます。今後の展望を読むことで、来年の市場の見方が一歩深まる内容です。

EXPERT

清水智

HAKUBA EdTech 代表 |日本人初のTeacher Canvassador 👑
GEG Hakuba Valley 代表/NewsPicks認定エキスパート/
東京都公立小学校主幹教諭⇨長野県公立小学校講師 などを経験👨‍🏫/
JFCファクトチェックトレーナー/白梅学園大学非常勤講師/#FREERIDESKI #小笠原🐬

長野県内外のGIGAスクール構想の伴走支援をしています。Canva for Education やGemini等の生成AIに関するワークショップや研修、講演等を学校や研究組織、企業と連携して行っています。

Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?

2025年、教育現場における最大のトピックは、生成AIが一部の先進的な人が使う「特別なツール・アプリ」から、誰もが当たり前に使う「普通のツール・アプリ」へと姿を変えていっていることです。

これまで、教育現場のDXを阻んでいた最大の壁は「操作の難しさ」と「心理的なハードル」でした。しかし、文部科学省の「生成AI利用ガイドライン Ver.2.0(令和6年12月26日)」が発表され、適切な利用の道筋が示されたことで、現場の空気は明らかに変わってきています。

象徴的だったのは、ある定年間近の校長先生の変化です。これまで「パソコンは苦手」と仰っていたその校長先生が、CanvaのAI機能「Magic Studio」などを使い、わずか数分で全校児童に向けた講話用のスライドを作成されたのです。テキストを入力するだけで、AIが画像を選び、音楽をつけ、背景まで仕上げてくれる。「これなら私にもできる」と目を輝かせた瞬間でした。

さらに、Google for Education の進化も、先生方の「働き方」と「学びの質」を劇的に変えました。対話型AI「Gemini」は、授業案のたたき台や校務に関わる文章などを数秒で提案してくれる壁打ち相手となり、「NotebookLM」は、膨大な教育に関連するデータや資料を読み込み、瞬時に要約・Q&A、また最近のアップデートで図解やスライド資料としてくれることで、先生一人ひとりに専属の教材研究アシスタントがついたかのような環境を実現しました。

しかし、これらはゴールではありません。AIが「作る」「まとめる」作業を肩代わりしてくれた分、人間には「何を表現したいのか」「子どもたちにどんな“問い”を投げかけるか」という本質的な役割が突きつけられるようになりました。

2025年は、ツール・アプリの操作を覚える時代が終わり、ツールを使って「心をどう届けるか」を競う、人間回帰のフェーズに入った年だと言えます。AIが身近になったからこそ、泥臭い「教育への想い」がより鮮明に可視化される。そんなパラダイムシフトを、私は全国の教室や職員室などで目の当たりにしています。

Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?

なぜ、今年これほど急速に変化が進んだのか。背景には3つの要因があると考えています。

第一に、AIが「日常ツール」に溶け込んだことです。これまでは「AIを使うために別のソフトを立ち上げる」必要がありましたが、Canva やGoogle Workspace といった、先生方が毎日開くツールの中にAI機能が統合されました。特別なスキルがなくても、「いつもの画面」にあるボタンを押すだけで恩恵を受けられるようになった。このUX(ユーザー体験)の革命が、ベテラン層の心理的ハードルを極限まで下げました。

第二に、「正解のない問い」へのシフトです。学習指導要領が知識の暗記から「探究」へと舵を切る中、子供たちのアウトプットは多様化しています。紙のテストだけでは評価できない、動画やプレゼン、プログラミングといった表現活動を支えるには、もはや従来のアナログな手法だけでは時間が足りません。現場は、子供たちの創造性を爆発させるための「武器」を渇望していたのです。

そして第三に、「働き方改革」の実装です。私が主幹教諭時代に痛感したように、教員はあまりに多忙です。しかし、Gemini やNotebookLM の登場により、教材研究や事務作業の時間は大幅に圧縮されました。空いた時間を「子どもと向き合う時間」や「授業デザインを練る時間」に充てられるという実利が、AI活用を精神論ではなく、生存戦略として定着させました。

テクノロジーの進化、カリキュラムの変革、そして現場の切実なニーズ。これらが2025年に完全に交差したことで、日本の教育現場は「次のステージ」へと足を踏み入れたのです。

Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?

2026年以降、教育現場は「知識を詰め込む場所」から、「プロジェクトを動かす“人間力”を磨く場所」へと急速にシフトしていくと考えられます。

これは、ビジネスの最前線にいる皆様がすでに実感されていることではないでしょうか。「綺麗な資料作成」や「データ分析」といった実務(How)は、AIという「優秀な部下」が数秒でこなしてくれます。では、AIが完璧な資料を用意してくれた後、最後に残る仕事は何でしょうか?

それは、「誰と握手をするか(交渉)」であり、「現場の空気をどう読むか(共感)」であり、「何のためにやるか(意志)」を決めることです。

例えば、私が伴走支援する長野県内の中山間地域の小学校における「総合的な学習の時間」の授業では、すでにその変化が起きています。かつては、地域の観光客データをまとめ、発表用にスライド資料やポスター等を作り発表会を実施するだけで授業は終わっていました。しかし今は、データの収集や分析、スライド作成はGeminiやCanvaとともに終わらせます 。生み出した時間で子どもたちが何をしているか。彼らは教室を飛び出し、地域に出向き、「この地域にこんな魅力があるんだと」と熱っぽく語り合い、泥臭い人間関係を地域と築いています。

AIが論理を完璧に埋めてくれるからこそ、人間は「理屈では割り切れない感情」や「相手の懐に飛び込む勇気」といった、最もアナログで人間臭い部分に全リソースを注げるように、ますますなっていくと思われます。

「エキスパートアドベントカレンダー2025」とは

「エキスパートアドベントカレンダー2025」は、NewsPicks Expertに登録するエキスパートが、各業界・専門領域における学びや、エキスパート活動を通しての気づきを共有する期間限定企画です。2025年12月1日〜12月25日の25日間、エキスパートの学びや気づきをお届けします。

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https://newspicks.expert/advent-calendar/2025

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