Q1. 2025年、あなたの専門領域で最も印象に残った出来事・変化・トピックは何ですか?
2025年を振り返ったとき、水インフラ領域において最も象徴的だったのは、年始に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故です。この事故は、単なる物理的な崩落にとどまらず、私たちの生活の「足元」に潜むリスクを社会全体に突きつける契機となりました。
これまで、下水道管の老朽化という課題は、私たち専門家や業界関係者の間では「いつか必ず起こる問題」として認識されていました。しかし、一般の方々にとって、地下深くに埋設されたインフラは文字通り「見えない存在」です。それがどれほどの深さにあり、どれほど老朽化が進んでいるのか。八潮市の事故は、その見えない現実を、道路陥没というショッキングな映像とともに白日の下にさらしました。「薄々は知っていたけれど、ここまで酷いとは思わなかった」これが、多くの人々が抱いた偽らざる実感だったのではないでしょうか。
この流れは八潮市だけに留まりませんでした。京都市の交通量の多いエリアで発生した水道管破裂による一時通行止め、そして直近では沖縄県で発生した大規模な断水。2025年は、こうしたインフラ起因の事故が連鎖的に発生した1年でした。
これらの一連の出来事が示した事実は明確です。日本の上下水道インフラにおける老朽化のタイムリミットは、もはや「未来」の話ではなく、「現在」すでに到来しているということです。
Q2. その出来事・変化が起きた背景には、どのような要因があると思いますか?
相次ぐインフラ事故の背景にある最大の要因は、日本特有の歴史的背景にあります。それは、高度経済成長期における「インフラの集中的な構築」です。
かつて日本は、短期間で爆発的に道路、橋梁、上下水道などの社会資本を整備しました。しかし、同時期に作られたものは、当然ながら同時期に寿命を迎えます。これが現在、私たちが直面している「一斉老朽化」の正体です。欧米諸国でもインフラの老朽化は深刻な問題ですが、開発が長い期間にわたって段階的に行われたため、日本ほど急激な「更新のピーク」は訪れていません。海外では日常的に漏水や破損が発生し、それがニュースにならないほど常態化していますが、日本は「一斉に」かつ「大量に」限界がきている点で、より深刻なリスクを抱えていると言えます。
さらに、この問題は公共インフラに留まらず、同時期に建設された民間の化学プラントや製造工場でも同様に進行しています。
そして、事態をより深刻にしているのが「人的リソース」の問題です。これまでの日本のインフラ維持管理は、ベテラン技術者の「経験と勘」、そして豊富な労働力によって支えられてきました。設備が古くなっても、現場の職人芸で騙し騙し使い続けることができたのです。しかし、少子高齢化と人口減少により、その前提は崩れ去りました。設備を守ってきたベテランたちは引退し、そのノウハウが継承されないまま、老朽化した設備だけが残される。これが、現在現場で起きている「ハードとソフトの同時崩壊」です。
Q3. このトピックは今後どのように進化・展開していくと考えますか?
2026年以降、直近の動きとして予想されるのは、国や自治体による場当たり的な補助金投入や緊急対策です。出血を止めるための応急処置は確かに必要ですが、ここで最も警戒すべきは、壊れたものを、そのまま元の形に戻そうとすることです。人口減少と税収減が確定している未来において、過去と同じ規模のインフラを維持しようとすれば、維持管理費の高騰により社会システム自体が破綻するのは火を見るよりも明らかです。
私たちが直面しているのは、単なる修理の問題ではありません。人口減少という冷厳な現実を前提とした「国土の再設計」です。インフラをいかにダウンサイジングし、効率化するか。これは政治家だけに任せる問題ではなく、私たち一人ひとりが考えなければならない国家的な課題です。
この視点は、民間の製造業においても同様に深刻です。多くの工場では、メインの製造プロセスの省人化は進んでいますが、水・ガス・電気・蒸気といったユーティリティ設備の管理はいまだに人の手に頼っています。今後は、この「工場のインフラ」領域において、いかに人を介さずに安定稼働させる仕組みを構築できるかが、企業の存続を左右するでしょう。
公的な上下水道も、工場のユーティリティも、根本は同じです。インフラが止まれば、生活も生産も立ち行きません。 これまで「壊れなくて当たり前」「縁の下の力持ち」として光が当たってこなかったインフラ領域ですが、その安全が多大なコストと人の献身によって守られていたことが露呈した今、ようやく適切な投資と関心が向けられる主役になる時代が来ると考えています。
私自身がウォーターデジタル社を設立した理由は、まさにここにあります。古いインフラ管理の常識を、デジタルの力で再定義し、持続可能な社会基盤を次世代へつなぐ。そのための支援に、全力を尽くしていく所存です。



