多忙な中で価値を提供し続けるために、あえて「効率化」をやめたら、仕事が前に進み出した - 古庄宏臣 / #引き算の仕事術

公開日: 2026-02-24

「#引き算の仕事術」とは、仕事やキャリアの中で「やめたこと・減らしたこと」という選択を、各業界で実務に向き合うNewsPicks Expertのエキスパートが言語化し共有する寄稿企画です。

関わる役割や領域を手放すことは、分散していた力を一点に集め、リスキリングや強みの再定義を通じて本来の専門性と価値発揮を際立たせます。

本記事では、どの仕事や役割を減らしてきたのか、その迷いと判断、そして価値の出し方がどう変わったのかを、知財務株式会社 代表取締役の古庄宏臣氏の経験を通して描きます。

自分の強みを再定義することで、長期的に価値を出し続けるキャリアの輪郭が見えてきます。

EXPERT

多忙な中で価値を提供し続けるために、どんな役割・案件・領域への関与をやめた/減らしましたか?

現代社会は、とにかく忙しいです。忙しいのでオンラインミーティングにより移動によるロスを無くし、生成AIを活用して情報を調べ、調べた情報に基づき文章も生成AIで作成する。こうしたデジタル・テクノロジーを上手く活用することで、次から次へと仕事をこなし、私の会社の業績は向上し、洪水のように入って来る情報も生成AIによって要約し短時間で情報をインプットすることで刺激のある毎日を過ごすことができました。

しかし、あまりに忙しく、強い刺激を受け続けると、人間は次第に馬鹿になる傾向があります。物を考えなくなる傾向があるのです。だから、あえて「効率化」を捨てました。もちろん効率化は必要です。しかし、あえて要所では「効率化」を捨てて非効率な「人間らしさ」を追求したことで、本当の意味での仕事の成果が上がったのです。

その関わり方を続けていたことで、本来出したかった価値や専門性が薄れていると感じた場面はありましたか?

「効率化」を徹底的に追及し、次から次へと仕事をこなし、様々な刺激に追われていたら、自分で物を考える余裕はなくなり、ただ動物のように刺激に反応するというだけになってしまうことに気づいたのです。

これは私だけでなく、私の周りの人達、取引先など私の仕事に関わる人達も同様に効率化を追求し、人間が機械のようになりつつありました。

数字上は会社の業績が向上するも、数字には現れない問題が潜在的に蓄積されていったのです。オンラインミーティングで情報を共有するのはよいとして、その前後の雑談は無くなり、雑談から新たな気づきを得るといったイノベーションの源泉に触れる機会は無くなりつつありました。生成AIを活用して文章を作成すれば、作成スピードは向上するも自主的な個性的な思考が失われ、情操というものを養う余裕がなくなってしまいました。次から次へと駆り立てられ、本当に無内容になってしまい、“人間らしい能力”を失いつつあったのです。

つまり、人間として無内容になりつつあったのです。

そこで、対面にこだわり、人と会う、Face to Faceで膝を突き合わせて議論することで新しいアイデアを生み出し、仕事が終わった後は飲みに行くといった古臭い仕事のやり方にこだわりました。そして、単なる連絡事項ではなく、人に“メッセージ”を届けるための文章は生成AIに頼らず自らの魂を込めて文章を作成することにこだわったのです。

手放す際に「もったいない」と感じた点や、周囲の期待とのズレ、トレードオフは何でしたか?

ただし、これは私一人だけでできるものではありませんでした。

対面というのは相手があってのことであり、効率化を追求している人達に、ここを理解頂くことには時間を要しました。そのため、対面でのミーティングは必ず私の方から出向くことにしました。相手の移動ロスを生じさせないように配慮しました。私から出向くと申し出ても、それでも対面を拒絶されオンラインにこだわる人には無理強いはしませんでした。移動ロスを一手に引き受けて、人と人とが会うことの重要性を説き、実践し、その結果として同じ時間内でも対面の方が多くの成果が上がることが理解され、次第に対面の機会が増えてきました。

とはいえ、私自身、後になって「これはオンラインでも良かったかな?」と思えるようなケースでも対面で実施し、やはり「非効率」となったケースはありました。

しかし、そうしたトライ・アンド・エラーを繰り返すことで、最適解に近づくことができたように思えます。

手放したことで、今はどんな専門性や価値の出し方に集中できていますか?

要所では、あえて「効率化」を捨てたことで、情熱をもって仕事に取組み、その情熱が相手に伝わることで、仕事が前に進みやすくなったように思えます。

私は、モノづくり企業が有するコア技術を活かして新規事業を開発する支援をしています。私は助言をしますが、実際に手を動かすのは現場の技術者です。素晴らしいと思えるアイデアを具現化するべく実際に試作・実験をしても、思い描いた通りにはいかないことがよくあります。言われたことだけをこなす技術者であれば、一つの壁にぶつかった時にそれを乗り越える術を考えることなく、私から「答え」を待っているだけのケースがありました。技術者が自分の頭で考え創意工夫のもと壁を乗り越えるようになるには、私自身が情熱を持って技術者と接する必要がありました。

こうした技術者による「もう一歩踏み込む」という仕事の積み重ねが偉大な事業へと繋がるのであり、それは「効率化」だけでは生み出せない私自身による「価値」だと気づいたのです。

もし「自分の価値が分散している」と感じている人がいるとしたら、今すぐ1週間で見直せる具体的なポイントは何だと思いますか?

私は、あえて要所では「効率化」を捨てました。

最近は、企業に勤める中間管理職の方から「部下が動かない」や「部下と飲みに行く機会がない」という話を聴きます。様々なハラスメントの問題から部下との交流機会が減っているようです。退社後はプライベートな時間であり、そこに介入してはならないという風潮もあります。

しかし、近年の若い人たちは向上心・好奇心があり、自らを高める機会を欲している人が多いです。もし、部下とのコミュニケーションの機会を「誘いにくい雰囲気」があるとしたら、それはハラスメントのルールではなく、自らが仕事に忙殺され、いつのまにか無内容な人間になっていないかを、いったん立ち止まって考えてみてください。

課題に対する解決策の多くは、生成AIが導き出してくれる時代になりました。多忙な時代に、あえて立ち止まり、時には「効率化」を捨てて、自分ならではの“人間らしさ”を出すことを考えてみてはどうでしょうか。

部下の持つ意外な能力を引き出す機会になるかもしれません。


本記事は、NewsPicks Expertに登録する各業界のエキスパートが、自身の経験から「やめたこと・減らしたこと」を言語化する寄稿企画「#引き算の仕事術」の一編です。

思考や意思決定、専門性、マネジメントといった多様な視点からの寄稿は、以下の一覧ページよりご覧いただけます。
https://newspicks.expert/media/category/subtraction-workstyle

こうした経験の言語化は、日々の実務の中で積み重ねられてきた知見そのものでもあります。本記事を通じて生まれた視点や問いが、これからの働き方やキャリアを見つめ直すきっかけとなり、それぞれの現場での新たな選択へとつながっていくことを願っています。

実務の中で培われた経験は、言葉にして共有されることで、企業の中で意思決定を担う人を支える知見へと変わります。こうした知見が生まれる場についても、続けてご紹介します。

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