Expert Story

Amazonジャパン黎明期に得た知見を日本社会へ

合同会社西友 EC事業本部 ダイレクター(2021.11.2追記:2021年11月より株式会社サンドラッグ 執行役員 兼 EC事業部 事業長)

田丸知加

#小売・流通DX

日本大手通信会社を経て、2003年アマゾンジャパンに入社。16年に渡り、小売部門にて全商品の商品登録から販売、販売後の販売促進、マーケティングや広告、運用まで、カテゴリー横断の多数サービス・業務改革・プロダクトの日本責任者に従事。その後セブンアンドアイホールディングスにて、デジタル戦略企画部長として、グループ横断のDX・EC推進、新規事業立案を行う。現在Walmartの子会社であった西友に参画し、OMO施策や楽天西友ネットスーパーの新規事業開発等幅広く従事。(2021.11.2追記:2021年11月より株式会社サンドラッグ 執行役員 兼 EC事業部 事業長に就任)

Published 2021.6.24

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Prologue

人口減少社会に突入し、生産性向上が急務となる日本企業。最大の打ち手の一つがDXだ。しかし、多くの企業が縦割り組織になっており部門横断的な取り組みがしづらい、あるいはすでに部分最適のシステム導入が進められていてリプレイスに対する抵抗があるなど、その浸透には障壁も多い。

20年近くEC・デジタルの分野に従事してきた田丸知加氏は、そんな日本企業のDXに貢献するという志を抱いている。黎明期のAmazonジャパンに入社し、同社の成長とともにキャリアを築いてきた田丸氏。彼女は、日本企業のデジタル化における大半の失敗は「テクノロジーありきの発想に起因する」と考える。

日本企業が変わるために、経営層はどのような意思決定をし、企業内個人はどう考えて行動するべきなのだろうか。DXによって生きる日本企業ならではの強みとは。

外資系企業での経験を生かした取り組みを行なう田丸氏に考えを聞いた。

※記事・写真中のプロフィールや肩書は取材当時のものです。

野望は「外資系企業の経験を生かした日本企業のDX」

「デジタル領域において、日本は世界に遅れを取っている」とさまざまなところで語られています。ITやAI、機械学習など、多数の用語がバズワード化する中、企業はDXに向けて、先進技術を使ったシステムを導入しようと躍起になっています。

とはいえ、日本はDXに至る道のりの整備が十分でない企業が多いと感じています。

私は、Amazonで16年間にわたり、ビジネスサイドでシステム化や仕組み化を推進し、その後は日系の小売大手に勤めてきました。これまでに培った知見を使って、日本企業を変える手助けするという野望を抱いています。

「これってどういう仕組みなんだろう?」 EC黎明期に飛び込んだ

小さいころから、ものがどうやってできているのかに興味がありました。ペットボトル飲料でも何でも、成分表示をじっくり読むような子どもでした。

そこから理系に進み、大学では応用化学を専門に学びました。今の仕事とは直接結びつきませんが、「仕組み」や「構造」への関心は、ECに興味を持った理由とリンクするところがあります。

大学生のころ、Windowsが日本でも普及し始めて、「これからの時代は通信だ」と直感しました。インターネットでのものの売り買いに可能性を感じ調べてみると、ちょうどAmazonが日本に上陸していたところで。まだ日本での知名度はほとんどなく、社員も少ない、ただネットで本を売っているベンチャー企業でしたが、私はその仕組みを不思議に思いました。 

「ネットで注文した本は、どこからどういう流れでお客さんに届くんだろう」「このサイトはどうやってつくっているんだろう」。それが知りたかったというのが、入社の大きな動機になりました。

入ってみると、仕組みが整っていない、未成熟の組織でした。ですが、会社の成長スピードは半端なかった。新しい機能やサービスがどんどん世に出ていくのと並行して、私は業務改革や日本の市場調査などを幅広く進めていきました。取り扱う商品の種類が増えるたび、業界の商慣習を学びました。百貨店に話を聞きに行くこともありました。

当時は社内が、本、アパレル、電化製品、食品など、カテゴリーごとの縦割りになっていました。それぞれの部門が個別に成長しているがために、無駄が多くなっていることに気づきました。

そこで私は、各部門に必要な機能やサービスを横ぐしで統括する取り組みを始めました。要望を聞いて回って取りまとめ、本社であるアメリカをはじめ、インドやヨーロッパのメンバーと数多く議論をこなしました。

Amazonでの16年で学んだ、多様性の中を生き抜く知恵

いろいろな国の人と関わる中では、摩擦が発生することもありました。そんなときは「そういう考え方もあるんだ」と、状況から少し距離を取り、客観的にとらえるようにしていました。

ただ、どの国の人も、直接会って話すと基本的にはいい人です。やはり人間、一度会話をおけば、次のカンファレンスコールではすごくいい雰囲気でやりとりできるものです。だから私は何かあれば、積極的に関係のある人に会いに行くようにしていました。たとえば、海外出張の前には空港の土産物屋に立ち寄り、日本限定の抹茶味のチョコレートを買って行く。それを話のきっかけにして仲良くなるようなことをしていました。

Amazonは、感情抜きの合理主義で動いているように見えるかもしれませんが、実はそういった根回しのようなコミュニケーションをしている人は多いです。「顔見知りになる」というのは、誰と働く上でも大切だと学びました。

多様性は自己成長にもつながる重要なことだと身を持って感じています。私は、さまざまな国の人の豊かな発想に触れ、物事をより多面的にとらえられるようになりました。

スマホを起点にオンラインとオフラインを融合する

これまでの経験を日系企業に役立てることができないだろうか、と考えていたとき、セブン&アイ・ホールディングスで、デジタル戦略について知見がある人を探しているという情報を耳にしました。いろいろなカテゴリーでプロダクトローンチをしてきた経験を評価されてお声がけをいただき、ECのプロジェクトに携わらせていただきました。

これまでの小売では、「ECか実店舗か」は対立している存在でした。今では「オンラインとオフラインの融合」は大きなテーマです。アメリカでは、スマートフォンを最初のお客様接点として、スマホを起点にしたOMO(Online Merges with Offline)のデジタル戦略が進んでいます。

「スマホを持って来店するとあなただけの特別クーポンを配信します」といったキャンペーンは、オフラインなのかオンラインなのか曖昧ですよね。そうやって今後は、境界線がなくなる世界になると思っています。

これまで店舗では、「何が何個売れたか」以上のデータを取ることはできませんでした。しかし、お客様が持っているスマートフォンを顧客IDと紐付けることができれば、そのお客様が来店したとき、どんな頻度で何を買い、売り場のどこをどう動いているのかがわかるようになります。

さらに、「この商品を手にとったけど結局買わなかった」といったデータまで取れるようになる。そうなれば実店舗でもECと同じようなデータが集められ、よりその人に合った商品やサービスのレコメンドができるようになっていきます。

テクノロジーを取り入れようとする企業が陥る罠

こういった取り組みは、やったほうがいいと誰もが感じているものの、実現できている日本企業はそうそうありません。構想自体は理解できても、最も難しいのはやはり実装の部分なのです。

日本企業の皆さんは、デジタルの重要性は十分わかっていると思います。ですが、デジタル化された理想の世界と、現場の実態との乖離が激しすぎて、なかなか実行できない。一手目として何をするべきかがわからない状態なのだと思います。

これは裏を返せば、やるべきことが明確になれば多くの人がついてくるということです。

デジタル化を急ぐ企業によくある失敗が、テクノロジーに明るい人材を外から迎え入れ、とにかく早く何かつくろうとしてしまうことです。テクノロジーありきで考え、何をやりたいのか明確にしないまま開発を外注してしまうことも多いと感じています。

アプリ開発の際、ユーザーの使いやすさを考えることは当然大切です。ですが、プロダクトがユーザーにのみ最適化され、裏では従業員がマニュアル作業に追われてしまうようなケースがよく見られます。

やみくもにデータサイエンティストを採用しようとするのも典型的な失敗例です。「データさえ集められれば何か新しいものが出てくるだろう」と期待して採用しても、データサイエンティストの多くはビジネス側の人間ではありませんから、新しい提案ができるかというとなかなか難しいものです。

本質的なデジタル化は「要件定義」からはじまる

私が思うに、企業がまずやるべきは、何をつくるかきちんと定義することです。なんとなくふわっとやりたいことを考えている限りは、本質的なデジタル化・効率化は進みません。

採ったデータをうまく活用するには、活用に向けて何が必要なのかを細かく定義し、ビジネス側と開発側をつなげた仕組みをつくる必要があります。小売業であれば、エンドユーザーはもちろん、社内でシステムを使う人たちの業務フローを含めて事細かに定義する。

Amazonは、この「要件定義」がすごいのです。このプロセスに一番時間をかけ、リソースを割きます。日本企業も、これができるかどうかだと思います。

加えて必要なのが、「カスタマーファースト」の発想です。たとえばアメリカでは、実店舗の売り場で、商品がどこにあるのか道案内してくれる仕組みがあります。ただ、日本の都市部のスーパーには、道案内するほど大きい店舗はほとんどない。すると、私たちにはその機能は必要ありません。逆に、アメリカでは不必要でも、日本のスーパーに行く人にとって必要なものがあるかもしれない。そこをカスタマーファーストで考えることが大事です。

さらに、導入後はそれをしっかり運用して適宜バージョンアップしていく仕組みの構築も必要です。導入すればいいという話ではありませんので、実現までの道のりは長いですね。

独自性を生かしながら抜本的に変えていけるツールがデジタル

日本人や日本企業は、良くも悪くも与えられたことに対して真面目に取り組みます。であれば、与え方さえ間違わなければ、集中して仕組み化を進められるはず。その点は日本の強みです。

日本企業の強みを残すとともに、海外企業の事例から学び、多様性を受け入れながら日本独自のスタイルを築いていく。独自性を保ちながら、抜本的に変えていけるツールとしてデジタルがあるのです。

人口減少社会である日本は、今のままだと世界的なプレゼンスが厳しくなっていくことは目に見えています。私にも子どもがいますが、若い世代が日本から関心を失い、海外にしか目がいかなくなるのは悲しいことです。ぜひこのタイミングで変わっていただきたい。私はそのためのお手伝いをしたいと思います。

編集:宮原透、南部菜生子 取材:落合真彩 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人

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