
Expert Story
株式会社ベネッセコーポレーション こどもちゃれんじ日本事業セクター 事業開発本部 本部長
手林大輔
#幼児教育
1993年ベネッセコーポレーション入社。幼児向けの教育サービスに長く携わり、しまじろうのコンサートや各種イベント・施設、英語教育事業の立ち上げなどを担当。近年は自社発の良質なコンテンツを日本だけでなく、海外に提供する取り組みを実施。中国、台湾、インドネシアなどでも”しまじろう”のファンを拡大中。趣味はDJごっこと広島カープの応援、読書など。
Published 2021.8.6
Prologue
「小さいお子さんに関わる仕事って、贅沢だと思うんですよね」
そう語るのは、ベネッセコーポレーションのこどもちゃれんじ日本事業セクター事業開発本部で本部長を務める手林大輔さんだ。
幼児教育と言えば、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育のほか、最近ではSDGsやダイバーシティ&インクルージョン(D&I)などのトレンドを取り入れる風潮もあり、正解がない。そんななか、手林さんが一貫しているのは「幼児教育×エンタメ」によって、子どもたちの「家族の良い思い出」の1つを作ることだった。
では、手林さんが今の考えに至った経緯には何があったのだろうか。幼児教育事業を担当し続けてきたからこそ見える「幼児教育事業の可能性」と、ご自身のチャレンジを伺った。

幼児教育×エンタメ──この方程式に魅了され、28年が経とうとしています。
そんな私が幼児教育事業で実現したいのが、これからの未来を生きる子どもたちの「思い出」に1つでも多く関わること。それを生きがいにしています。
「教員になりたい」。これは私が最初に抱いた目標でした。
中学時代に親の転勤で引っ越しをしたのですが、思春期なのでちょっとした話し方や考えの違いで新しいクラスにとけこめず、学校へ行くのがめんどうだと感じた時期がありました。
そんなとき、小学4年生のときの担任が電話をくれたのです。何を話してくれたわけではなかったのですが、新しい中学での生活のことをゆっくり聴いてくれたことですごく安心したことを覚えています。
また高校のときの担任の先生の「君たちは親を他人として見ているか?」のひと言から気づきを得たり……いい先生方と巡り会えたことが、私の目線を「教育」へ向けました。
でも、結果的に教員にはなりませんでした。教員を目指す過程で「自分は勉強そのものが好きではない」と気づいたからです(笑)。
学生時代のもう1つの貴重な気づきは、エンターテインメントの魅力と、それが人生に欠かせないものだ、という気持ちです。
入学した大学では、学生放送局に入りました。ここで、いろいろな曲をセレクトし、つなぎあわせて流すラジオ番組を制作・オンエアしていました。また多くのライブやイベントにも出かけることが多い学生時代でした。そうやってエンタメの楽しさに触れるうち、こう考えるようになりました。
「教員でなくとも、教育×エンタメでなにかできるんじゃないか?」
衣食住に比べて、教育やエンタメは「なくても困らないもの」だと思います。でも、私はそういうことにこそ「人間の人間らしいところ」が詰まっていると思うのです。そして、良い体験・コンテンツは後世に語り継がれていく。
私は、自分たちより若い世代の方々に将来「子どものころに“それ”を見ていました」と言われるものを作り出す仕事に関わりたいと考えるようになりました。
そして飛び込んだのが、いまのベネッセコーポレーション(※当時は福武書店)でした。
新卒でベネッセへ入社したのは1993年。最初に配属されたのは「進研ゼミ中学講座」でした。営業部に配属されたのですが、私が音楽好きだと知っていた上司から「この企画をやってみれば?」と声をかけられたのが、中学校生活の3年間で聴いたヒット曲をセレクトする「卒業アルバム企画」でした。
この企画をはじめ、外部のさまざまな企業の方や制作に関わる方とお仕事するチャンスをたくさん経験することができ、その後、子どもが生まれたタイミングで、こどもちゃれんじへの異動を打診されました。
当時の上司によると、しまじろうのファミリー向けアミューズメント施設「しましまタウン」を作る計画があり、他社とやりとりができる人材がほしかったとのこと。そこで、私に白羽の矢が立ったのでした。
「しましまタウン」は当時のベネッセでは前例のないプロジェクト。どこに出店するのか、どんなコンセプトがいいのか、ライセンス契約はどうなるのか、ロイヤリティはどれくらいなのか。これらを調べたり調整することに1年ほど費やしました。なかなか思うようには進まなかったです。ですが、その中で「しまじろうと親子の特別な日を過ごしてもらおう」というもう1つの企画「しまじろうコンサート」のアイデアも生まれたのです。
コンサートのきっかけは、当時出展していた「さっぽろ雪まつり」です。そこではしまじろうの雪像を設置し、ミニコンサートを実施していました。
イベント開始前から-9℃の屋外にも関わらず、1,000人以上のお客さまが「しまじろう」を待ってくださっていて、はじまると同時に、歌ったり踊ったり、大盛り上がりをしてくれる姿を見て「もっと多くの人に、いい環境でみてもらえるようにしたい!」と嬉しくなり、しまじろうというキャラクターによる、親子コンサート、イベント事業の可能性に確信をもてました。
このとき、こどもちゃれんじは開講12年目。すでに150万人以上のお客さまがいました。
過去にも認知獲得のプロモーションとして同様のイベントを実施していたことがわかりました。なので、採算度外視のチケット料金の設計や、参加したい人がなるべく希望の座席をとれるように複数回の抽選を実施していたんですね。なので事業化するにあたって、価格帯やオペレーションを見直しながら再設計してスタートしてみました。
しましまタウンは「家以外での遊び」「家族の楽しいおでかけ」を提案できるものにしたかった。そのため、土日で気軽に行ける商業施設に入れたいと考えていました。
逆にしまじろうコンサートは「特別なお出かけ・行事」にしたかったので、イベント性の高い「クリスマスの時期に限定して実施」などの違いをつけながら、2つの事業を同時並行していたのです。
とても濃い2年間でしたが、嬉しいことにしましまタウンは全国7店舗まで拡大(残念ながら現在は終了)、しまじろうコンサートは当初5万人規模だったところ、現在は50万人規模で開催を続けています。

しましまタウンやしまじろうコンサートなどのイベント事業が軌道に乗りだしたころ、こどもちゃれんじでは、幼児期の英語に着目した新しいサービスを開発していました。現在の「こどもちゃれんじEnglish」「Worldwide Kids Englishです。
子どもたちが大人になるころ、いまの私たちよりも、海外の人たちと仕事をするのが普通になる。そう未来を考えてみると、歯磨きやおかたづけ、トイレトレーニングなどのように「自分のことを自分でできるようになること」=子どもなりの自立をサポートすることと同じように、英語を楽しめるヒントも組み込んでおいたほうがいい。
そして、できれば親子で楽しくできる提案を、ベネッセならではのこだわりをもって届けたい。そんな想いのもと、これらの英語事業が立ち上がったのです。
英語はたくさん聴いて、見ること、話してみることが大事です。だからこそ、音声と映像を合わせたコンテンツが鍵になります。
多くの映像コンテンツを制作していく中で、英語だけでなく「幼児期の学びや楽しみ」には映像が不可欠であり、また「こどもちゃれんじ」を中心としたベネッセの幼児教育サービスの中で非常に多くの映像を毎年作り続けていること、それがストックされてきていることに気づきました。
また、「こどもちゃれんじ」は日本での開講翌年の1989年から台湾でも事業を開始。2006年からは中国でも事業を開始しており、早くから海外展開をしていました。
日本の少子化もあり、マーケットとしての海外を見据えていたことだけでなく、子どもたちが幼いころによりよい学び・遊びに触れる機会をできるだけ多く方に届けたいという想いもあってのことと先輩たちからは聞いています。
そして実際に海外の「こどもちゃれんじ」の教材でも多くの映像が作られており、実は「子どもが喜び、反応してくれる映像には共通項がある」ということにも気づかされました。
もちろん、日本で放送している「しまじろう」のTVアニメは台湾や中国、韓国、インドネシア、タイと広くお子さんにも観てもらえており、YouTubeが子どもたちの生活に入り込んだ現在は、さらにさらに多くの方に楽しんでもらえるようになってきたと思います。
そういった気づきの中で「映像」をキーとして海外でも事業を展開していくことが、これからの時代にはあっていると考え、各国で制作していた映像コンテンツを翻訳・吹替して、どこの国でも使えるように知財、ストックの仕方、映像文法などを整えていきました。そうすることで事業の立ち上げスピードを加速できたり、適正なコストの使い方ができたりするように、取り組んできました。
これらの活動を通じて、改めて「国を問わず、子どもが喜ぶことには共通点があること」に確信がもてました。さらに、自分たちで作るだけでなく、世界中の良いコンテンツをお預かりし、広めることもできるのではないか?と次のアイデアにもつながります。
自社でコンテンツを企画制作するだけでなく、「こどもちゃれんじ」に関わってきた幼児教育コンテンツのプロとして目利きをし、海外の子どもたちが観ている良質なコンテンツを日本でも展開できるように、日本で初めての幼児向け番組に特化した動画サービス「Meecha!」をこの3月に開始しました。
BBCやABCなどの同世代の違う国の子どもが楽しんでいる番組に触れることによって、将来大人になったときに「あ、その番組子どものときに観たよ!」と盛り上げってくれるといいなぁと思っています。
ベネッセでイベント事業や海外事業のサポート、新規事業を経た私が今後より深めたい領域、それが「意見が異なる人との対話」です。これを子どもたちに伝えていきたい。
これからの世の中は国内に留まらず、さまざまな国々の人たちと対話しながら生きていく世界になります。要するに、価値観が違う人と話さざるを得なくなっていく。
幼児時代からいきなり「違う意見の人と対話する」はできなくても、「違う意見だけどおもしろい」と思える種を撒くことはできるはず。私は、今まで培ってきたスキルをもとに、この領域へもう一歩踏み込みたいのです。
思い返せば、これまで担当してきた事業すべてに対して「DJっぽいことをしているな」と感じています。学生のころから趣味でずっとDJごっこをやってきているからかもしれません。
「何を組み合わせればいいのか」「誰と手を組むのか」などを考えていると、大学時代の学放送局での番組作りやセットリスト作りを思い出します。意外と学生時代の経験や趣味などが積み重なって、仕事をしている自分を作っているのだなぁと思います。
「幼児教育×エンタメ」では、掛け合わせる要素は無限大にあります。そこから生み出される子どもにとっての「良い体験」が「良い教育」へとつながっていくと考えているのです。
さぁ、これから子どもたちが「おもしろい!」と喜び、幼少期の思い出として残り続けるものをあとどれくらい作れるのか。私にとって、こんなにも贅沢で楽しい仕事は、ほかにありません。

編集:宮原透 取材:福岡夏樹 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人
Expert Storyは、NewsPicks Expertで活躍している
エキスパートの深層を探る、インタビューコンテンツです。