Expert Story

デジタル変革によって、偏見のない“イコールな世界”を実現する

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 代表取締役社長

井上裕美

#DX

2003年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。 官公庁業界を中心としたお客様のコンサルティング、システム開発、保守運用に携わる。 官公庁業界のリーダーを経て、2020年7月より日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員および日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IBM Japan Digital Services Company: IJDS)代表取締役社長に就任。 専門領域は基幹系およびDXに関わるシステム全般、プロジェクトマネジメント。若手技術者や女性技術者コミュニティなど、様々なコミュニティ活動を実施し、プライベートでは二児の母。

Published 2021.8.6

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Prologue

2020年7月1日、日本IBMの出資子会社3社を統合・合併する形で、新会社「日本IBMデジタルサービス」が発足した。

30代で代表取締役社長に就任した井上裕美氏は、コロナ禍の難しい会社経営を委ねられることになった。現在は、社員数千人をひきいるリーダーとして、デジタルテクノロジーを活用した企業変革に挑んでいる。

20代から官公庁の基幹システムプロジェクトなどに携わりながら、2児の出産・育児を経験。仕事と家庭を両立するなかで、どのようにキャリアを築いてきたのだろうか。

これまでに見てきた景色・課題感について語ってもらった。

デジタル変革を支援する、日本IBMデジタルサービス

日本IBMデジタルサービスは、お客様のデジタル変革を支えるため、個別の強みを持った複数の会社を統合した組織です。2020年7月1日の設立から1年が経ちました。

会社が設立されたのは、コロナウイルス流行の真っ只中。

社員とさえ直接会うことができない状況において、お客様とどのようにつながり、難しい状況を共に乗り越えていくかという、学びの1年を過ごしました。

その中で改めて感じているのは、デジタル変革がもたらす価値です。

加速度的に進化するテクノロジーを最大限に活かし、お客様に価値を届けるだけでなく、一緒に価値をつくっていくこと。それが私たちの最大の目的です。

コロナ禍で働き方の“バイアス”が見直された

組織で取り組んでいるデジタル変革は、マイノリティやマジョリティの分け隔てない、「イコールな世界」にもつながると考えています。

「イコールな世界」というのは、DXの実現により、すべての人がデジタル技術の力で恩恵を受けることができ、社会に存在するアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が取り払われ、フラットに生きられる世界をイメージしています。

たとえば、現在浸透しているリモートワークは、基本的にはワーキングマザーや介護ケアをしている人を中心とした働き方でした。

子育てをしているお母さんは、夜に会社で仕事をしたくても、その場にいることはできない。しかしながら、リモートワークであれば環境的には可能であると。

「オフラインの人=マジョリティ」

「オンラインの人=マイノリティ」

お互いにまったく悪気なく、自然とそのような世界がつくられていたように思うのです。

しかしながら、コロナ禍に「出社しなければ仕事ができない」というアンコンシャスバイアスは見直され、個々人が働きたい場所で、パフォーマンスを発揮できる時間に働く多様性が認められつつあります。

このような世界は、DXが進むことによって実現されています。

そのように考えると、組織における女性活躍やジェンダーに関するトピック、世代や国籍の違いによって生まれる課題も、デジタル技術を使って、イコールにすることができるのではないでしょうか。

その可能性を探り、1つずつ実現していくことが私個人の夢です。

自由で平等な社風に惹かれて、日本IBMへ

両親ともに理系だった影響か、STEM(科学・技術・工学・数学)領域を学ぶことが面白く、大学では女子が数名しかいないクラスでしたが、特段気になることなく在籍しました。

卒業後は「社会のインフラをテクノロジーで支える仕事がしたい」という思いから、日本IBMに入社しました。

IBMでは入社した20年近く前から、「女性だから」「若いから」と言われた経験がありません。そのような発想自体が出てこない、自由な社風にも惹かれたのだと思います。

事実、アメリカのIBMでは、約80年前から女性の副社長が出ていて、100年以上前から、「人種やジェンダーに関して平等であるべきだ」と発信しています。

従来の興味・関心に加えて、私がアンコンシャスバイアスに課題意識を持つようになったのには、いくつかのきっかけがあります。

たとえば、私自身もふくめて、出産後の女性や小さいお子さんがいる女性が、海外出張など新しいチャレンジをするタイミングにおいて、「育児が大変だろうから」「時間の制約があるだろうから」と配慮されるケースを見てきました。

リーダーは良かれと思ってそうしているのですが、人によっては、その機会を知らずに失うのではなく「タイミングを見て選択したい」と思うケースが多いのではないでしょうか。これも1つのアンコンシャスバイアスの発生ではないかと感じます。

組織のリーダーもアンコンシャスな偏見に縛られている

私が組織のリーダーになったのは、ちょうど子どもが生まれたタイミングです。それまでは何でも自分でやるタイプだったため、同じようなパフォーマンスを出せるか不安を感じていました。

「時間の制約がある中で、リーダーとしてやるべきことはなんだろうか?」

そのことを真剣に考えた結果、メンバーに任せながら、間に落ちている業務やタスクを意識的に拾っていくことで、全体がうまく回るように、仕事のやり方を変えました。

結果的に、プロジェクトがチームで動くようになり、お客様からは「お母さんになってからすごくいいよ」と声をかけていただくこともあります。

私のスタイルは、「自分が全てやりきる」「リーダーはそういうもの」という凝り固まった偏見を捨てることで、確立されていったのだと思います。

昨年、代表取締役社長への就任が決まったとき、社員数千人、ご家族も含めて数万人の生活がかかっているという重圧にすごく悩みましたが、日本IBM社長の山口は、私を任命した理由として「巻き込み力」を挙げてくれました。

その期待に応えられているかはわかりませんが、これまでのキャリアにおいて、社内外の人と共創して、若手技術者や女性技術者を増やす施策、プロジェクトマネジメントを活性化するコミュニティなどをつくりあげています。

デジタル変革の実施は、お客様と一緒に新たな価値創造を起こすことにつながるため、その共創の経験が、DXの専門性を身につける成功体験にもつながっているのだと思います。

課題解決には、価値の見える化が必要

日本企業がデジタル変革によって課題を解決していくためには、現状の正しい認識が必要です。たとえば「女性管理職を増やす」などの目標を掲げているのであれば、現実としてジェンダーギャップ指数が低いことを認識する。

その現実を「課題がある」と言って終わらせるのではなく、どのように解決できるのかを具体的に考えることが何よりも大切です。

私はそれらの課題を解決するために、金融や製造業など、いろいろな業界のお客様とお話をしています。

みなさん、デジタル変革の大切さはわかっているものの、今は現場のマネジメントに特別困っているわけではない。だから「なんとなく腹落ちしていない」という感覚をお持ちなケースを伺いました。

私たちはそのようなお客様を支援するために、価値の見える化に取り組んでいます。「デジタル技術を活用し、多様性が混ざり合った結果、財務諸表が良くなり、退職率も低くなる」。

その価値が目に見えれば、みなさんが課題を自分ごととして捉えてもらえると考えているためです。

デジタル変革が浸透した社会では、「多様性」や「ダイバーシティ」といった言葉自体が出てこなくなると思っています。

私も「女性社長」や「母親」「若手」といった属性がつきますが、人種や国籍、性別などに関わらず、すべての人がイコールでいられる世界を実現したいと思います。


編集:宮原透 取材:落合真彩 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人

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