Expert Story

デジタル通貨フォーラムを通して、金融の「民主化」に貢献したい

フューチャー株式会社取締役 / フューチャー経済・金融研究所長 

山岡浩巳

#金融

フューチャー株式会社取締役兼フューチャー経済・金融研究所長。ニューヨーク州弁護士。民間企業により構成される「デジタル通貨フォーラム」座長。86年東大法学部卒、90年カリフォルニア大バークレー校ロースクール修了。日本銀行調査統計局景気分析グループ長、企画室シニアエコノミスト、金融機構局参事役大手銀行担当総括、金融市場局長、決済機構局長などを経て現職。この間、IMF日本理事代理、バーゼル銀行監督委委員なども務める。 

Published 2021.6.24

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Prologue

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、金融市場に大きな影響を与え、世界全体の経済は大幅なマイナス成長を記録している。

当然、日本も例外ではない。「緊急事態宣言発令」にともなう移動自粛、外食・観光業界を中心とした消費の冷え込みにより、2020年度のGDPは前年度比4.6%減。2008年度のリーマン・ショック時(3.6%減)を上回り、戦後最大のマイナス幅となった。

山岡浩巳氏は、新卒で日本銀行に入行。マクロ経済分析、金融政策、国際分野に長らく従事し、歴史的な金融危機の現場に何度も対峙してきた人物だ。同氏は、過去の経験から何を学び、急速に変化する現在の金融をどのように見ているのだろうか。

デジタル時代に金融が果たすべき役割、インフラとしての可能性について、未来の展望を語ってもらった。

 

元日銀局長が考える、おかねと金融の未来

私は現在、「デジタル通貨フォーラム」の活動を通じて、おかねや金融が、より良い社会の実現に貢献していけるよう、参加企業の皆さまとともに尽力しています。

かつて金融は、「リスク」と「リターン」を軸に、よりリスクが低く、リターンが高い分野に資源を配分することを主な役割としていました。

しかし、たとえばマネー・ロンダリング対応は、「金融から犯罪を抑止する」という新たなマンデートですし、ESG金融は、「より持続可能性に役立つ分野に資源を割り当てる」というものです。

このように、金融インフラの役割は高度化し、「リスク」と「リターン」を超えた役割が期待されるようになっているのです。

この中で鍵を握るのが、デジタル技術の金融への応用であり、デジタルマネーです。

情報技術の革新により、おかねや金融は、「価値データを超えた、さまざまなデータを活用するネットワーク」として、機能できる可能性が広がっています。

そのためには金融インフラのイノベーションが重要であり、その主役となるべきは、やはり民間です。

現在、いくつかの国々で「中央銀行デジタル通貨」が検討されていますが、いずれの国も「イノベーションの主役は民間だ」と表明しています。

また、おかねを扱う金融には、高い信頼が求められますが、データエコノミーの時代において、信頼はますます重要となります。

人々は、データをしっかりと守り、最善の活用をしてくれると信頼できる主体に、データを託そうとするでしょう。

この観点からも、日本の金融インフラが、データエコノミーの時代に積極的に対応していくことは、日本全体のDXを実現していく上できわめて重要です。

経済活動は“実体”を見ないとわからない

大学卒業後、新卒で日本銀行に入行しました。

学生時代は法学部。とくに民事法を勉強していたため、法曹界も選択肢にありました。ただ、私は法律だけだと飽きてしまう部分があって、マクロ経済のような、振れ幅がある世界のほうが面白いと思ったんですね。

そこで、いろいろな企業や役所を回るなかで、日銀の話を聞いて、「自分に向いていそうだな」と。金融自体への強い興味というより、日銀の公共性や社会のインフラであるという点に惹かれました。

入行後はまず、地方支店で経済のミクロ・マクロ分析をおこないました。

マクロ分析と聞くと、普通は「データをダウンロードして、机上でパソコンをいじる」というようなイメージがあるかもしれませんが、日銀支店の場合は「地域調査」といって、企業の方から、直接お話を聞くことになります。

これが個人的にすごく良かった。

たとえば新潟には、お米やお酒、かまぼこ、食器を作っている会社が多くあります。

燕(つばめ)市は有名な洋食器の産地なのですが、輸出品の売れ筋をとっても、欧米では持ち手が漆になっている日本風の高級食器が売れるけど、中近東では金色に赤や緑の装飾を施した食器が売れるとか、そういう話を聞けることがすごく面白い。

駅からも遠い、田んぼの真ん中にある工場が、いちばん世界のマーケットを見て商売しているわけです。

やっぱり経済はモノを見ないとわからない。

どんなにマイクの前で語られても、記事を読んでも、数字をダウンロードしてきても、それはごく一部の情報にすぎません。経済活動の実体を見ることができたのは、とても貴重な経験でした。

繰り返される、金融危機から得た学び

1997年、調査統計局で景気分析のチーフ(景気分析グループ長)をやっていたときは、どん底を経験しました。いわゆる日本の金融危機です。

当時は「ここまで悪くなるのか」というくらい景気が急速に落ち込み、大手銀行や証券会社の倒産が相次ぎました。

実は1997年というのは、サッカー日本代表がマレーシアのジョホール・バルでワールドカップ初出場を決めた年でもあります。

翌日の朝刊には、「日本W杯初出場」と「拓銀、都銀初の破たん」の見出しが同時に載るような状況で、こちらとしては「喜んでいる場合じゃない」と思ったことをよく覚えています。

当時は34〜35歳で「何がなんだかわからない」というくらい働いたのですが、働き盛りのときに、日本経済の変動を間近で見て、「経済は何が起こるかわからない」ということを実感できたのは良かったと思います。

それから7年以上企画室という部署にいて、その後IMFで経験した大変動がリーマンショックです。

2008年9月、米リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発し、世界的に経済が大混乱に陥りましたが、日本は1997年の金融危機で危機管理ノウハウができつつあり、金融部門は

慎重に対応することができました。

日銀を離れた今、1つ心配事を挙げるとすると、そのときのノウハウを持っている方々が、さまざまな現場に少なくなっているということです。

この先、同様の金融危機が起こったときに、危機管理のノウハウを持った専門家はどこにいるのか。その専門家のノウハウをどのように継受するのか、という点は非常に重要だと思います。

グローバルから見た、日本の人材問題

海外では、IMF(国際通貨基金)日本理事代理として、グローバル金融危機時の数多くの支援パッケージに関与。バーゼル委員会では、金融危機後のグローバル金融規制枠組みの企画立案をおこなうなど、国際分野にも長く関わってきました。

その中で、日本のグローバルプレゼンスの低下については、課題を感じています。

私が関わってきた、IMFやBIS(国際決済銀行)にしても、「ポストを取る・プレゼンスを高める」という意味において、他の国々はもう必死です。

たとえば、金融関連の国際機関がポストを公募するとき、各国は国内の人事ローテーションを二の次にして、ベスト・アンド・ブライテスト(最良の、最も聡明な)人材を送ってきます。

このような各国の必死さに比べ、はたして日本はどうか。

日本は日銀でも役所でも、2〜3年ごとのジョブローテーションが基本です。

関連する国際会議に出たとしても、数年で別の人に代わりますということでは、まったく名前を売ることができません。

他国の場合、「国際機関・国際会議ならこの人」という人が、同じポジションに10年ほどいて、自国に戻ったときに、たとえば、中央銀行の総裁や監督機関の長官になるということがよくあるわけです。

日本では「本省などでキャリアを積まないとダメ」という感じが濃厚にあって、グローバルプレゼンスという意味では、このままだと永遠に苦しいだろうなと思います。

「私は本省に戻らなくてもいい」「国際機関で頑張って働き続けます」という方もいらっしゃいますけど、やっぱり個人の気概に頼っている感じがしますよね。

日本にかつてのような国力があるわけではない中、海外で活躍できる人材の育成はますます重要です。これは我々世代が十分にできなかったことなので、若い人たちの支援を頑張っていきたいと思います。

デジタル通貨によって、世界はどのように変化するか

日銀で約30年務めた後、現在はフューチャー株式会社の取締役をしています。

公的機関から民間企業に移ってみると、やっぱり新鮮で面白い。

たとえば役所の場合、これは良い面も悪い面もありますが、基本的に組織が先にありきという側面がある。「◯◯局の◯◯課」というものがまずあるので、その組織に必要な仕事を作ることになりがちです。

一方、民間の場合は組織よりも先に仕事がある。まず仕事が先にあって、そのプロジェクトにリソースを投下していくという発想。

これは素晴らしい考え方だし、公的機関も取り入れていくべきだと思います。仕事がなくなったら、もう素直にサンセットする、解散すると(笑)。

私は日本銀行からIT企業に移り、テクノロジーの重要性をさらに強く認識しています。今後、挑戦したい夢として、「デジタル通貨フォーラムの活動」を挙げました。

おそらく中国はデジタル人民元を発行してくる可能性が高いと思います。インターネットやYouTubeでも、デジタル人民元の実証実験に関する情報がバンバン出てくるわけで、あの国がここまでやって「結局発行しません」となることは、もはや考えにくい。

そうなると当然、「他の先進国で同じことができないのか」という議論になります。

これは国のメンツの問題ではなく、新しい産業の成長という観点から、便利なデジタルマネーが使えるようにならないと、デジタル産業自体が発展しにくいと考えています。

私が「デジタル通貨フォーラムの活動」によって実現したい世界は、具体的に以下のようなものです。

あらゆる人々が、安全で便利な支払決済手段を1年365日・1日24時間利用できる。

人々が、自分の欲する分野におかねを振り向け、おかねの使い道をトラッキングできる。すなわち、金融の「民主化」が進む。これは、ESG・SDGsの時代に一段と重要になります。

支払いに伴うデータがさまざまな用途に活用できるようになる一方、個人のプライバシ―やデータセキュリティはしっかりと守られる。

これまで取引が難しかったアセット、たとえば、さまざまなキャッシュフローや知的財産、新しいアートなどが、デジタル化によって取引できるようになり、経済取引の多様性が広がる。

マネーインフラがさまざまな用途、たとえば、持続可能性への貢献や地域のコミュニティ形成にも寄与できるようになる。

このような世界の実現に役立つよう、フォーラムの参加者とともに力を尽くしたいと考えています。

編集:宮原透、南部菜生子 取材:宮原透 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人

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