Expert Story

コンサルタントとして「環境と経済の両立」を実現したい

株式会社NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット マネージャー

松沢優希

#資源循環

環境・リサイクル・ごみ問題に関するコンサルタント。 国内・国外の環境関連制度の検討に資する調査業務、資源循環関連団体の支援や、民間企業のプラスチック戦略の策定支援、工場排出物の管理合理化コンサルティング等に従事。 過去には総合電機メーカー関連の環境ソリューション企業にて、新規環境ビジネスの開発、リサイクル工場の管理等を経験。 横浜生まれ横浜育ち。 シンガポール永住権を保有。

Published 2021.6.24

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Prologue

 

環境問題は現代社会の重要な関心事だ。SDGs採択の流れを受けて世の中の環境意識は高まり、あらゆる人や企業に持続可能な取り組みが求められるようになった。

しかし、企業にとって環境問題は難しい。表面的な活動が「SDGsウォッシュ」と指摘されてしまう中で、経済合理性とのバランスを探りながら結果を出さなければいけない。複雑な状況における適切なアクションを、多くの企業が模索している。

そんな時代だからこそ、環境コンサルタントの存在意義は大きい。

NewsPicksプロピッカーやNewsPicks Expertとしても活動する松沢優希氏は「今のこの時代をコンサルタントとして過ごせてよかった」と語る。大きな夢を抱えながら活躍する彼女の胸の内を聞いた。

 

「公共性」と「グローバル」の軸で選んだ仕事が環境だった

私の夢は、環境と経済が両立された社会の実現です。具体的には、専門としている「資源循環」に加えて「脱炭素」を推進することがひとつ。そしてこの状態を経済合理的、且つ持続可能な形とし、人間社会、究極的には地球全体の繁栄が続くようにすること。この2軸の追求を目指したいと考えています。

現在、NTTデータ経営研究所に所属して環境、特に資源循環関係のコンサルタントをしています。民間企業の工場から出るごみの削減や最適な分別・処理のお手伝い=「排出物管理合理化コンサルティング」や、環境に関わる制度の調査や戦略策定検討支援など、幅広いプロジェクトに携わっています。

もともと、公共性の高い領域でグローバルな仕事がしたいという思いがありました。子どもの頃に清掃ボランティアに参加したり、通っていたミッション系の大学で人類愛の思想に触れたりしたことで、このような志向を身に着けたのかもしれません。

私は文学部の出身で、環境そのものを専門的に学んでいたわけではありません。ただ「公共性」と「グローバル」という観点から就職活動をしてご縁があったのが、人類の普遍的な課題である「環境」に関わる企業でした。

「3K」の職場で感じた資源循環のおもしろさ

新卒で総合電機メーカーグループの環境ソリューション企業に入社しました。リサイクル工場を運営しており、グループ会社か否かを問わず、社会から排出されたごみを収集し、資源循環させる事業などを営む会社です。

はじめはオフィスで、データ分析などのデスクワークに従事していました。そして入社2年目、自社のリサイクル工場への異動を言い渡されます。産業廃棄物などのごみが運び込まれ、それを解体する、リサイクルの現場です。ごみを取り扱う現場は、どうしてもいわゆる「3K」の職場が多いです。女性だった私は、周囲からは「すぐに辞めてしまうのではないか」と思われていたそうです。

しかし、工場での経験は本当に楽しかった。私はここで資源循環のおもしろさに目覚めました。

ここで学んだのは、「実際にやってみないとわからないことばかり」ということ。それまでは机上の情報として扱っていた資源循環が、目の前でおこなわれている。その光景がとても新鮮でした。

工場で解体したものは、素材別に分けて、そのときの資源相場に応じて値段をつけて売りに出します。ひとつひとつの素材をしっかりと分別すれば、かなりの割合でごみを出さずに循環させられるんです。それまで何らかの機能を持っていた「もの」を解体すると、それが「素材」となり、別の価値がつく。その流れが興味深く、おもしろかったです。

個人的にも、工場で働く方に頼んで、お昼休みを利用していろいろなものを解体させてもらいました。小さなものはコンピューターのマウスから、大きなものは医療機器のMRIまで。工場にいた4年間で、資格が必要になるようなもの以外はだいたい解体しました。

一方で、顧客・自社の経済的・管理的な都合で、リサイクルが道半ばで中断されてしまう現実も知りました。本来なら分解して再利用できるものも、時間がかかる、コストに見合わないと判断されれば、焼却・燃料化されてしまうことがあるのです。ここで、資源循環と経済の両輪を最適化させることの難しさを学びました。

包括的な課題解決を目指してコンサルタントに転身 

環境ソリューション企業には8年間、在籍しました。

リサイクル工場を離れたあとは、社内の新規環境事業立ち上げに携わりました。グローバルな環境で仕事がしたいという思いから、日本の優れたリサイクル技術を発展途上国に売り込もうと提案し、プロジェクトを発足させました。東南アジアの数カ国に足を運びましたが、単独での事業展開は困難で、残念ながら実現には至りませんでした。そのほか、ヨーロッパから有害物質の無害化技術を日本に持ち込み、ビジネス化することにも携わりました。

そんな中で関わったコンサルタントの方々が印象的だったのです。皆さん向上心が高く、「個人の哲学を売る」という働き方をしていました。とても素敵な方々で、私もこうなりたいと考えるようになりました。これまでに培ったリサイクルの知識、新規環境ビジネスの立ち上げ経験が活かせるとも感じ、現在の仕事であるコンサルタントに転身しました。

社会の環境意識はこの数年で大きく変わった 

コンサルティング会社に入社したのは2016年2月。ちょうど世界的に環境関連の大きな変化が続いていたときでした。2015年9月のSDGs採択に始まり、同年12月にはEUで「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」が採用されました。それまで主流だった「経済成長のためなら環境負荷が増えても仕方ない」という考え方から、経済と環境双方の進展を目指す大きな流れができました。

さらに2018年に「欧州プラスチック戦略」、2019年に「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」が発表され、社会への資源投入量の見直しや循環の必要性、ごみ問題への国際的な 対処の重要性を再確認する動きが本格化しました。そして2020年に主要国で立て続けに掲げられ、日本からも打ち出された「カーボン・ニュートラル宣言」が決定打となり、脱炭素がビジネスの大前提となるとともに、様々な世の中の資源の無駄遣いについても是正が叫ばれ、企業は真剣に環境問題に取り組まざるをえない状況になりました。

そういった激動期のもとで、いただくご依頼の幅は広がっていきました。企業の環境戦略策定、実際のビジネスに即したものから国際会議に関する案件など、多種多様なプロジェクトに携わることができました。

自分のアウトプットがめぐりめぐって政府の政策に反映されたり、国際的な会議で使われたりすることがあります。そういったときには、やはり大きなやりがいを感じます。

もちろん、民間企業とのプロジェクトも好きです。環境は今や経営上の重要なトピックとなっています。例えばプラスチック問題を踏まえた環境目標の打ち出しや排出物管理の合理化という側面から、企業のビジネス戦略に関わることができるのはとても楽しいです。今のこの時代をコンサルタントとして過ごせてよかったと感じています。

立場に縛られない豊かな視点を提供したい

2019年にNewsPicksのプロピッカーに就任し、その翌年にはNewsPicks Expertとしてエキスパート活動を始めました。コンサルタントが自分自身で考えを打ち出していくことは必須だと考えています。NewsPicksでは環境ニュースに対するコメントを発信し、エキスパート活動では有識者としてクライアント企業に知見を提供しています。

活動の中で心がけているのが「トータルな視点を差し上げる」こと。環境問題は複雑です。そのときどきの最適解を見つけるためには、あらゆる見地から知恵を出すことが必要だと思っています。

例えば、自然の中で分解されるから環境によいと言われている生分解性プラスチックは、実はプラスチックリサイクルの流れに組み込むと、一部の工程を阻害する危険性があることがわかっています。

また、解体しやすいように作られた商品は、耐久性に欠ける傾向があるかもしれません。商品がすぐ壊れてしまうのであれば、世の中に資源が活かされている時間が短くなってしまう。

どちらも表向きには環境に優しいように見えますが、実際にはそうとは言い切れません。もののライフサイクルの全体を考慮した上で打ち手を探り、助言ができるコンサルタントでありたいと思っています。

私の強みは、多様な視点を持っていることだと考えています。メーカー系リサイクル企業の出身ですので、製造業とリサイクラーの立場を経験しています。工場の現場のこともわかります。コンサルタントとして関わった方も含め、一般企業をはじめとして、公的機関や環境ビジネス企業など、何千人ものさまざまな立場の方と関わってきました。

偏らず、押し付けない形で環境問題を検討したいと思っています。

企業から広がるのが現代らしい社会変革

今は、企業の力を信じなければいけないときだと思っています。

これまでは、環境問題とは政府が規制を敷くことによって解決が進んでいくものでした。企業も、政府が引いた基準をぎりぎりクリアできていればよい、同業他社に先んじられなければよい、という意識で問題に取り組むところが大半でした。

しかし、私がコンサルタントとして過ごしてきたこの5年間強で、流れが大きく変わってきたことを感じています。

企業は大きな影響力を持っています。先進的な企業の動きを受けて社会が変わっていくことが多くあります。脱プラスチックの領域では、政府がルールを作るのを待つより先に、新たな取り組みを始める企業が多くありました。

環境関連のスタートアップが打ち出す新規事業には興味深いものがいくつもありますし、もちろん大企業の行動には大きな存在感があります。事業者の変革を促すことは非常に効果的ですから、その事業者の戦略策定のお手伝いをする私たちコンサルタントの存在意義は大きいはずです。

最近、渋沢栄一の「道徳経済合一」という思想が話題になりました。「社会にとっての善」と「経済」は表裏一体であり、片方が片方を犠牲にしていいものではない、という考え方です。SDGsやESG経営と通じるものがありますよね。

私はこの考え方に賛同しています。企業が経済活動をしている時点で環境に対して良い影響を与えているという状態が理想的だと思っています。

SDGsの「マネジメント」を広めたい

SDGsが唱えられ、社会全体で環境問題に取り組む流れができました。それ自体はすばらしいことです。しかしながら、SDGsとは単なる「目標」です。その目標の達成状況を管理する主体が存在しないのは問題だと思っています。

「環境に優しい」とされる行動は身近なものから壮大なものまでたくさんあります。

生活者も事業者も、達成するべき目標を見ずに、簡単にできることをいくつか行うだけで「SDGsに貢献しているからよし」と満足してしまうのでは、本質的ではありません。より抜本的なことができる可能性を模索してほしいと思うのです。

生活者の皆さんにも、視点を高くして、経済と環境を両輪で考えて行動することを心がけていただきたいと思っています。私がNewsPicksなどで続けている発信がヒントになれば幸いです。

コンサルタントとしては、今後は事業者に対して、SDGsのマネジメントをお手伝いしていきたい。具体的な目標の設定から始まり、きちんと観測を行ってフィードバックをする、そのサイクルを回していきたいと考えています。

世界は確実によい方向へ向かっている

掲げる目標は高いです。しかし、あまり悲観的になることはありません。世界では確実に、右肩上がりで環境意識が高まっているからです。

前職で携わった東南アジアの状況を見ていると、特にそう感じます。当時は「規制がない・罰則がない」「罰則があってもルールが守られない」といった理由で適正処理・リサイクル事業に参入できず、頓挫してしまった計画がいくつもありました。しかし、数年の間にその国の社会の意識が適正処理・リサイクルを進める方向へ変わり、状況が好転していたということがよくあるんです。

自力ではどうにもならないと感じたことでも、案外、社会の側が変わり、時間が解決してくれるものです。

その中で、コンサルタントとして着実に、自分にできることをしていきたいです。      

編集:宮原透、南部菜生子 取材:南部菜生子 撮影:Masanori Naruse デザイン:鈴木雅人

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